ハワイ←→東京通信記録03




From: ****
Date: Wed, 26 Apr 89 21:58:52 JST
To: a.kamita
Subject:

 どうも長いメールをありがとうございます。
 ハワイはあたたかいでしょうか?
 日本はここ2日ばかり寒い日が続いています。
 網走の方は雪が降ったようです。こいのぼりが寒そうに泳いでいる風景がテレビに映っていました。

 政治は、竹下首相が、「予算成立をもって辞任する」と発表しておおさわぎです。5月の半ばには新しい総理大臣が生まれていることでしょう。

 それではまた。




Title:作品:ハワイ通信
Date :12:57am 4/28/89

メモ 81747番
From: ****
Date: Wed, 26 Apr 89 23:26:05 JST
To: a.kamita
Subject:

 前のメールは、オンラインで書いたので少し短くなってしまいました。

「ハワイはあたたかいでしょうか」なんて間の抜けたことを書いてしまいましたが、そりゃ暖かいに決っていますね。書いていただいた句を読むと、ギラギラと目の眩みそうな暑さが浮かんで来ます。そして、まったくどこを向いても海、海、海なのでしょう。
 それにしても、原色と獰猛な自然と、大洋の真ん中でできる詩というのもエキゾチックですね。幽玄・荘重なものとはまた一線を画したものを見れるというのもまた一興です。

 長いメールを通信ソフトの上で書いていたら突然リセットされたとのことですが、これはおそらくMIXの方で回線を切断したのでしょう。MIXは5分間何も入力がないと、回線を切ります。世の中には、通信中に寝てしまう人もいるようで(これはホントらしいです)、そのための安全装置です。
 普通は「そこにいますか?」という間の抜けたメッセージで警告をしてくれるのですが、通信ソフトのエディターで文章を書いていると、わかりませんから要注意です。
 対策としては、いったんオフラインで文章を書いてから、それをアップロードするようにすることになるでしょう。オンラインで文章を書いてもよいのですが、MIXのエディターは使いにくいし、文字化けが発生するでしょうから。それにTYMPASは、時間によっても課金されるようになっています。

 今日26日、東京では、20分ほどひようが降りました。芝生が、真っ白になるくらいになったところもあるようです。雷がピカと光り、あとは大雨です。3月のように寒いし、連休の前に憂鬱な日々ですね。

 ハイパー・ノートのようなホスト・プログラムは、なかなかないかもしれません。作るのが面倒なようです。草の根ネットでは、たいてい昔のアスキーネットのように新しいアーティクルから順々に表示して行くという電子掲示板(BBS:ブルティン・ボード・システム)を採用しているようです。

 PCSにはさっそく「ハワイ通信」という味もそっけもない表題のノートを開いておきました。私の文も含めて、ほとんど全文を転載しています。
 ところで、いつ頃まで旅行を続けられるのでしょうか? 今回は、旅行というよりリゾートという具合いに拝見しましたが。旅行地としてのハワイは日本でもかなり紹介されていますが、リゾートとしてのハワイを体験した人々は、そういないことと思います。

 ではでは   (****)




メモ 82258番
From: a.kamita
Date: Thu, 27 Apr 89 21:58:20 JST
To: ****
Subject: 第三弾です 緑字斎


球体の嘘が珊瑚礁の断崖といふ幻想にうちのめされる

肉体のエクササイズに老人も騙されてをる日盛り

色彩の重力 太陽の沈む浜辺に落ちるダークネス

 緑字斎


****さんへ

 いろいろお手数をかけて申し訳ありません。
 雹が降るなんて、小生がなるべく日本にいたくないなという感覚的なものと符合するような不吉さを感じさせますね、なんて。
 日本におけるこの数カ月の政情不安というものは、実は、ようやく政情不安という世界的な現実に仲間入りできたということなのではないでしょうか。天変地異ばかりではない、なにやら大きな変わり目が訪れているのではないかということなのですが、このように感じるのは小生ばかりでしょうか。
 例えば、ソ連や中国のこの間の急激な変貌は結局は社会主義国家という今世紀を充分に支配した科学性を消滅させていくものかも知れません。アメリカンドリームが力という科学によって破綻し、ヨーロッパは老衰し、東側ではシーラカンスのごとく、キューバなどが次の世紀に歴史博物館的に遺るだけになるかも知れません。
 いや、政治思想は政治機構の中ではエネルギーを持ちえなくなったということなのでしょうか。
 それにしても、いままで、日本だけが世界中で戦争が起こっているという現実と無関係な非現実にあったというのが、内容はともかく、世界の現実に覚醒させられていくというようなことは痛快な気がしないでもありません。
 こんなことをいうと、平和日本を世界のバランスの中で築き上げてきた人からは叱られることになるのですが、なに、戦後日本を世界から隔離して安寧の白日夢を見させていたのは、経済成長とともに肥大化した官僚機構の自動運転の結果なのですから。
 という話をどこかで見かけたこともあります。
 ということは、リクルート事件なるものも、ひとつには財閥系辺りの虚業潰し、さらに各省間の、とくに巨大化が偏見を持つ層にまで確実に予測されるようになった情報産業分野に対する綱引き、これは最下層官僚である郵政官僚とミカカへの牽制とエリート官僚による再編成を狙い、もしかするとついでに実効性の低減した一党支配の政治システムに手をつけるというようなことまである、そのような大陰謀なのかも知れません。竹下政権を問題にしていないどころか、自民党政権も吹っ飛ばす自動運転プログラム……。
 アメリカにしても、ブッシュ政権は脆弱な感じですし、朝鮮半島は南北ともに怪しい雲行きですし……。
 日本の変貌が極東の、世界の歴史の変化にようやく見合ってきている……。世界が日本というバランスのシンボルを破壊して急速に姿を変える……。

 このような近未来小説はいかがでしょう。

 さて、ラウラウという豚肉をタロイモの葉で包み、バナナの皮でさらに包んで燻した食べ物は、高菜で肉を巻いて蒸焼きにするようなイメージの食べ物で、スーパーで見つけてオーブンで温めて食したのですが、味わいが深いこと、とくにタロイモの葉がやわらかく、香ばしく、少し苦みがあるのがなんともいえず風変りで、初めて食べるものには福音ありと欣喜しました。
 もうひとつ、ポイという味なし汁粉のようなどろっとしたものは頼んだ店でライスとポイとどちらをつけるかときかれたところから、どうも主食的に位置するものらしく、家族はなんとも妙な顔して一口でやめたのですが、おもしろいことに、ココナツの油の塊がついていて、どうもそれを混ぜるようなのですな、混ぜるとココナツの甘さが広がるわけです。
 しかし、ふつうは、ココナツのあの甘ったるい油の匂いは得手ではないのでありますが、これは実になるほどなという味になるのです。あの甘味があって、味なし汁粉は食べることができるのでありました。そういえば、日本の汁粉があまいのと同じなのですね。

 ところで、例のリセットされた状況というのはちょっと違うのです。
 小生、ES-TERM2を使っていたのですが、TYMPASとの通信を一応終えてから、エディター場面に入って入力していたのです。
 そのときに、ハングアップしたわけです。
 286Lに2MのRAMボード(リチウム電池付きで、ボード上の内容は消えないのでATOK、LDICとMIFESをいれてある)をつけ、RAMドライバーはボードに付属の特殊な仕様のものらしいこともあり、また、その他常駐型のプログラムも呑ませてあるので、その辺りの関係からきたものではないかと思っているのです。
 今のところ、再現もしていませんし、ちょっと確認は取れませんが。
 しかし、面白かったのはそのあと自動的にリセットがかかり、A:のautoexec.batが立ち上がったのです。
 と、以上のようなわけです。

 最後に、ハワイには5月3日までいます。
 家族サービスに海水浴にきただけでして、フリーランサーは時間だけはなんとかひねりだせる、金は蓄えない、キリギリス生活の見本のようなものであります。
 
 明日は、ノースショワ辺りまでドライブという家族の希望があります。
 しかし、仕事をしていないと、いくら酒を呑んでも二日酔いにはならないし、こうまで体調というものは違うものでしょうかね。

 緑字斎

 ポイ




Title:作品:ハワイ通信
Date :10:42pm 4/28/89

メモ 82528番
From: ****
Date: Fri, 28 Apr 89 02:19:00 JST
To: a.kamita
Subject:

「なにやら大きな変わり目」というのは、私も感じるところではあります。ただ、今は「なにかわからぬ弛緩」のような状態と認識しています。西と東という劇的な対立構造が軍備増強という緊張を生んできたとすれば、それは次なる体制への止揚を導き出すはずという伝統的な理屈は教えるのですが、どうもそれは怪しいと思い始めています。

 なにが起こるにしても、どこか間が抜けています。日本の政治にしても、これだけ自民党のなかがおかしくても、野党政権が誕生すると見る人はテレビのインタビューなどを見てもまれなようです。

 先日、アメリカが国防費を削減すると発表して、これまた大騒ぎになりましたが、これもまた世界平和のためというより、ただ国の赤字を減らすための所為のようです。

 それは、老衰した肉体がエクササイズで一時の緊張を取り戻したとしても、翌朝にはもとの黙阿弥になってしまうかのようです。

 さてもあるいは、地面が球体の一部であるという科学的な教条を信じてきた人々が、目前に切り立つ断崖の前にして、その教条を頭の中の理屈に過ぎなかったのではないかと疑い始めるその状況でしょうか?

 科学や哲学が寒いところから発生してきたというのは、偶然ではないでしょう。ところが熱帯の暑さは「思考」を拒否してしまいます。自然現象は、なにも言葉で語らずとも、それ自体が強烈に迫ってきます。

 そういう場所では、人は、言葉よりも肉体を鍛え始めるものでは? 咏うよりも踊ってしまうのでは? という想念が緑字斎さんの句からなんとなく私が連想してしまったことですが……。あるいは熱帯の時代が来ているのでしょうか?

 体制の弛緩と肉体への回帰は、情報伝達の手段として「体系」よりも「うわさ」を選び、また「事実」よりも「想念」を尊重するものとおぼろげながら感じます。

 なにやらよくわからない……、しかしそれでいいじゃないかなどというのが、まるで空気のように辺りにはびこるわけです。

 理屈もよくわからないまま、次の新材料を求めて、原料をこねくりまわす超電導研究者は、決して自分のやっていることが科学なのだとは思っていなくても、そうせざるをえないという状況を肯定しています。試験管の中での核融合さわぎも、今はそういう時代なんだと納得させます。

 最近の日本の深夜テレビは素人が出演する番組がほとんど毎日のように放映されています。あるときは、ミュージック・バンドであったり、映画制作者であったりするのですが、これが、また刺激的前衛さを備えていて嬉しくもあったりします。しかし、一方で、慢性的な制作費不足に悩むテレビ局の都合だろうなんて、見ている人もいるのですが。

 こんな状態を少し前になんとか小説にまとめようとしたのですが、それは意外と具体的な描写を要求してくるようです。手間がかかるので手付かずになっています。

 さて、27日には、松下幸之助が死亡しました。これも昼のニュースで扱われ、夕刊トップの記事だったのですが、94歳での大往生となると死につきまとう不吉さというのは、ほとんど感じられなかったですね。

 リセットの件は、うかがった状況からすると、電源の瞬断だろうと思います。日本のように電力会社があまった金をただひたすら「信頼性の向上」へそそぎ込んでいる国ではありませんからアメリカは。日本で電源バックアップ装置がいまひとつ脚光を浴びないのも、水と安全はただと思っているお国柄のせいでしょう
か。

 28日からは、またもとのように暖かくなりそうです。
 (****)


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