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季節

彷える
甲州街道をメフィストされよ朝未明
ゆらめかれる非在の分だけを空孔
抉られて首都甲状腺に吊るされ
酩酊の碧を群げる樹皮よ反目
抛れる季語を重重くふるえ
りるっ りるっ りるっ
海星られる神さみだれ
枯れつづく意志から
死病ベーチェット
        される呪詛の滴れ
        睡りに記憶からめ
        虫干しなど羽抜る
          りりりり四季
            魂祭れて
              姫姦
山わらえる白檀を失跡されて
小刻む残照から鏡まれて
主辞に埋葬せよ 時制 テンス
金属するフリージアの潤め
繰り糸の移ろわれ

あるとき
夢が試されて……

〈動詞系〉は己れ自らを抽出して〈主格〉を
支配すべきである

(おれは母音の動詞群を発明した!)

木下闇する難聴
あけ おもて る濃霧に昇りはじめて
暁に掠める湖底の刺され
たぐられる時間を光線して
牡蠣の実割れ――


揺ら揺れる
白昼を屈まれて
乱れ風させる譲り葉
りるっ りるっ りるっ
あるいは 神垂れるエメラルド

泥冠れる青天から墜とせる
欲情を旋律する飢え
意志に孕ます夜を流れる
添われこぼす貝寄風
私語を潜む宇宙の断たれ

禊げる
   水葱を
      密教し
          逢引く
             少女陰
                唐紅う尖光
             山手線
          を妊娠
蒼空から翔ばせ歴史
佇まれる
蛇穴から坩堝されて
喪いの刻が火葬している
狂死される革命の裂目にさらし
ぬかるまれる季節
耽けられて
削りつづけよ解放
ときには挽歌させて
過去を吐かれる
雪崩て直覚を吠え
タブローに花吹雪け
りるっ りるっ りるっ
瞬ける神の瞥見される霊魂

縺れよ季節
金箔れて非在をたどられ
神裂ける意志を相姦されて
闇くぐりの情況を弾け
ためらわれる命を本源されて
死語をふるえる
渦めく時間を発情する

季節塞じ……
ひきかえに
サザン・クロスよ

(初出 『現代詩手帖』昭和47年11月号 1972)


(c)1974, Akira Kamita

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