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輝く夜
穴
私である
私を私有する私は私でない 私を
輝く夜 奇しくも鏡に
塗りこめる
そのとき 私は死体だ
つめたい水を含んだ風が
根に隙間なく生えた 桃色の繊毛を
そよがせる
生きている私の ほんものの死体を
食用する根が
命である
根が伸びて
その穴を穿つと
根が 穴である
根
私ではない
私を私有する私は私である 私を
輝く夜 奇しくも鏡に
塗りこめる
そのとき 私は死体ではない
つめたい水を含んだ風が
胴体に隙間なく生えた 桃色の足を
そよがせる
死んでいる私の ほんものの死体を
食用する虫が
霊である
足が伸びて
その根を穿つと
虫が 根である
虫
虫は虫である あるいは
虫から翔びたつものである
私を私有する 私でないものと私は
虫の経緯であって もはや
生きても死んでもいない
虫は 輝く夜 奇しくも鏡に
夜を塗りこめて 虫から
翔びたっている
そのとき そのものは死体に死を宣告する
つめたい星を含んだ風が
そのものにはえつづける 桃色の穴を
そよがせる
そのものは もはや
死体を喰らう用はなく
己れの穴によって
宇宙を吸いこもうとして
ふたたび そのものから
翔びたとうとしている
そのものとは
そのものの
輝く夜である
(c)1974,
Akira Kamita