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詩集「空中の書」 |
岸辺忘却のアシは切岸から突き出ている 聖なる声音をまねて 亡霊の名を呼ぶ 十数億年の生涯を 一箇の砂粒に封じ 齢老いた光 遺されたルーン文字 フネが辷る 月光と影のささやき 青い裸身よ 風にふれる乳房 するどい腰 尻の蠱惑的な曲線(カーヴ) ふかい溪間よ 母なる物質の彼方 ふたたび想い出せぬ その名 処女の血のこわれる ふるいふるい戦い 娘らの命で織り上げた布が 若者の蒼い髪を束ねていた 黄金の死の顔に すでに名前はない (……へその緒) 亡霊のかたちは 泡の自在な殻に呑まれ 十億の浜辺 百億の水底 夢が波のように偏在している 光はより大きな光のために 捩じ曲げられ 永遠の渦を巻く 光のうちにあるものは幸いなるかな 光は無限に直なる神 光の外にあるものは不吉なるかな 光はあくまでとどこおるもの わが砂のゆくえ 夢にあらわれ 鏡のごとく流れゆく 時はまばたき 夢の胞子にあるべきなり おお クリスタロイド 最初の名のはじまり 忘却のアシは 一瞬の距離しか知らない それは一瞬の跳躍 流れゆくものなべて 永劫の遮断である と |
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