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詩集「魔の満月」 見夢録

見夢録

マミ夢メモ 魔行の曼陀羅の投影図法の歴史の鍋よ 記録表の数字が手術台の極彩色のたおやかな光の女どもに永遠の四捨五入を迫られている だが統計学は事件簿に等しく転変の菫色から零へと垂れるであろうか 親族の夜は古代から不倫の車輪であり劣悪なる壺の心棒である 父の帰る頃の王宮は肥満体の花どもによって性器がしなやかな鞭である 数台の自動車に分乗してパーティの証拠湮滅を画策すべく銃火器を用いて深夜を警備している水銀灯を殺害する おおその背にマッターホルンのように聳え立つジャックナイフよ 曲芸人の肘には殺人事件の筋肉が聖衣さながらに感光している 頭蓋骨を撫でよ 机上の宇宙モデルの頭蓋骨を撫でよ それは古代のランプである またそれは巨人伝説の魔法である それから頭蓋骨を展げよ その中には記憶の寸断という美酒があふれている 前後不覚の電線の路地という路地にどろどろ腐蝕した蛸や蝙蝠や燭台の足が吐かれる 美貌の少年たちの美貌の臓腑よ おお紺碧の激痛が尻の根元から汚濁した七色のインク壷を噴出させる 熾天使の王たる電気回路を逆さまに果実を転がしている共有結合 巧妙な打楽器の激しい列車は真空管である 鏡板の迸る涙が切妻敷桁を封じ込めてゆく 薄暗い教会堂を陶器でできた年代ものの北欧人形が訪れる だがその老婆の胸に抱かれた枯花がみるみる値札を開いてゆく 頓興な少女の黄ばんだドレスあるいは雨雲の襟巻にパン屑や造花が弾丸を飛ばす 牡蠣は人面相をしてゴシックスタイルの官僚である 差掛屋根の南方系樹木の果実は黄金のコンソールテーブルである それらは第一夜の所業でありとりわけ第二夜には部屋の勾配に倒れ込む資産家の失踪が宣言される 四柱式寝台に招待された被害者と追跡者は擬不活性ガス構造をもっているであろうか 羽目板には留金と刃が薔薇窓である 目撃者が解剖される密室の若主人の狡智にはマルタ十字が輝いている 二重の殺人事件は腕時計の鎖に入れ替わる ミイラは実は縫いぐるみのビーカ―である 指の切端と腕の破片が外套の正体を十二時に射撃する おお帝王の偽装工作は完璧な首塊であり聖衣には紫水晶の占術が見破られている 律動する肉の衣裳のひと筋の紙片に入れ替わる有価証券 無水珪酸の丘陵の高熱太陽は長距離ランナ―の全力疾走であろうか 緑色の半導体に強姦された公園は幼児性の退行であろうか だが集団トレーニングは順調なダイビングタックルの花冠のままである 樹齢数千年の幻の光電管に自転車の轍がくっきり残っている 永久硬水は浮遊している肉の規律とともに煙幕戦術である おお純粋事件よ ルーイスの創発的電信器よ 脚部が陰陽の致命的な運行のただなかで開いてゆく 天使の貌をした湯気 裸足が物置小舎の中に脱ぎ忘れられる その荒家あぱらは平行線の廃糖蜜に不吉な矢印を添加する 失速する宇宙よ 銀河の断片よ 夜光列車の光茫に出現する楕円形の植物園のとりわけて第三夜 中央の通路で芝生が帯を作っている その帯を解きながら集団行動の最後尾から順繰りに道を外れてゆく 少女たちの教室ではグロテスクな実験器材とともに回り道の分だけ乳房が薔薇色である 駅の構内は終点の天国なのだろうか だが神経症の樹木の枝や根が雪のあつい接吻の地下からめらめら伸長しはじめると沼や池は呪文のうちに塞されてゆく 薄氷の岐れ道を辿る兄弟は落伍したままアブラハムの子であるダビデの子のように肥溜に漬り込んでいる 二階家の一階は汎神論的な密偵である 熱湯は母と妹たちに向けて投擲される 空に架かる抛物状の金曜日は地球の分身である 皆既蝕は電話魔の横行である 王侯貴族といえども結末には微粉末の華燭である 夢とは確執であろうか

(初出 詩誌『地獄第七界に君臨する大王は地上に顕現し人体宇宙の中枢に大洪水を齎すであろうか』第2号 略称フネ/昭和50年刊/発行人・紙田彰/初出誌では「連作詩篇 魔の満月・第三部」の一 1975)
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