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詩集 「strand における魔の……」

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魔の系図

I 翼のある種族

マンドラゴラの繁る
夕暮れの赤い空
凍りついた眼球が降りしきる
うらがえる気圏
とどこおった太陽が
くりぬかれた内臓のように
海の中心で
アルコールを醸し出している

首の羅列
歯を剥いた子供
丘の尖塔に架かる鐘が
その声帯を切り裂き
ひびわれた古代彫像が
睡りの夢を破られる
血にまみれた唇
ころがる泡

首狩族の暗黒の肩
金細工銀細工の欲望の武器よ
健康な水夫
その妖しい刀
荘厳なる金切り声

マンドラゴラの繁る
動脈の熱い弁
肥大して瀑布をつくる
大腿骨や密生する毛の砂漠
むしられた鳥獣
吊るされた星座

おお 夜だ夜だ夜だ

松明が駈ける
収束と大団円
とどこおったそれぞれの王は
うす紫に透きとおる翼を拡げ
土の中心をくつがえし
いま……

II 千里を駈ける眼疾

歴史が
人民の胸奥に腫物をつくる
解剖学者の見解によると
それは欠如の痕跡であると
だが
夜は恰好の喩えをあげる
夜は屍をひとつずつ名指し
年代順に並べると
独特の呪文で
息を吹き返させる
すると
胸奥の腫物が屍どもから脱け出して
異様な人格を形成するのである
夜の解説によれば
それは腫物の誕生であって
人民のほうこそ
腫物の欠如の痕跡であると

謎の歴史とは
眼がその種子を蒔く
見ることこそ誘いの魔

III 黄金の銅鑼

王宮とはほとんど銅鑼である
だから首は庭師である
老獪な庭師こそ
墓守の職務を全うする

ある晩のこと
茨の棘が宮殿に忍び込み
八つの首を持つ女王の歓心を買おうと
八つの眼を土産に口説いていると
部屋付の占術師が目を覚まし
その茨が先王の棺から生え出ていることを調べあげ
墓守の首を手ひどく絞めあげ
務めへの自覚を促すと
茨の棘は 夜ごと
占術師とたわむれることになる

出航を告げる銅鑼の王宮は
このときばかりは
恍惚の黄金となって
水夫どもの睡りを妨げはしない

IV 湖は水晶の液に盈つ

おくゆきのない白夜に
のっぺり貼りついた月が
赤い凧を降らせる
無数の凧には
いくつものひきつった顔がくくられ
なまぐさい風に吹かれて
深い大陸の峨々たる山脈の
屈曲した渓谷の遥かな奥の水のみなもと
楕円形の湖に
ひらひらひらとすべり落ち
冷たい水面に貼りついていく

湖を支配するのは足である
だから 足に蹴られて
顔どものいくつもの顔は
醜くくずおれ
肉片が凧全体を蔽い
あたりに舌や眼球をばらまき
湖は
臓物鍋のようにぐらぐらだ

凧を残らず喰ってしまい
きらきら輝き はりつめた湖水は
水晶のように凝結していく
白夜にのっぺり貼りついた月は
湖の燦きに色を失っている
すると なにものかに操られて
湖が ふらふら舞い上がる

V 白い空の円天井の鏡

全星座が墜落する
宇宙の素地が
さわさわと繊毛を吹雪かせて
いま 光ははじき返される
大理石を敷きつめた空が
明瞭なる白夜
囚われの闇

王国という歴史の焚火
鍋もぐつぐつ熔けている
王国の起源は
消炭だ 消炭
星たちの叛乱だ 狙撃者だ
火気に中られた空は
灼熱の暗黒へ
夜の彩色を失い
王国を映しだす
はらわたのドームとして
果てしない再生に足を!



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