ぶらり宿六ひとり旅 003



11月22日

【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Tue 22-Nov-88 11:09 GMT Sys
7014 (17)
Subject:
Mail Id: IPM-7014-881122-100400001

 すっかり学生気分とありましたが、やはり学生にしては少しふけすぎではないでしょうか。しかし、ひどくぼろそうなとこですね。心は豊かにお願いします。ところで、通信ですがなかなかうまくいっていますよ。たまに1行あいたりしてますけど、文字化けなどはありません。ちゃんと印刷して、みんなにみせています。便利だねえとおかあさんが感心していますよ。
 さて、子供たちですが、まあ相変わらずといったところに落ちついています。
 いつもよりテレビなど全てに甘くしてあげてバランスを取っているというわけです。
 明日は錦糸町のおじいちゃん(父、リハビリで通院のため錦糸町にマンションを借りている)がきてくれるそうです。とうさんがいなくて寂しがるとかわいそうだから、ちょくちょく行ってあげようと言ってくれています。
 よかったね。
 タイムパスの件ですが、薄くて小さな本といえないようなものしか入っていないのでまだよく分かりません。問い合わせてみようと思っています。
 仕事、一応手持ちゼロです。次の分が遅れているようですので、のんびりとワープロを打っているというわけです。そちらもあまり張り切り過ぎないで、少しのんびりしてはどうでしょう。では、また書きます。さようなら。
 眞弓

【ロンドン】
mail 7014:unp063 su 22 Nov am10 dear Mayumi

 おはよう。これを書き始めているのが、ブレックファストを終えたばかりの8:30。
 ま、どうってことのない朝飯だがね。
 疲れのせいか、風邪のせいか、風邪はずいぶんよくはなっているのだが、なぜか体が本調子ではない。寝不足はないと思うのだが、しかし、何度も目を覚ましたし、夢も数多く見る。ナーバスになっているということはない。比較的よく寝めたと思っているしね。
 夕べ、地下鉄に乗って、ピカデリー・サーカスに出てみた。ここからだと、Pimlico stationからVictoria lineでGreen park乗り換え、Piccadilly circusとなるわけだ。自動券売機で50P、安くはない。
 ぶらぶら、わからない道を適当に歩きながら、やはり寒い寒いと思っていた。チョッキの上に背広、黒のコートで行ったのだけどね。
 かなり安全とみた。治安はかなりいいのではないかな。もっともまだ大したところに行ったわけじゃないが。
 夜のロンドンは寒さが、ぴりっとした感じがあって、それでいて、ぞくぞくするほど厳しくはないといった感じがする。
 ちょうど劇場街を歩いていたので、道行く人々も観劇の後、肩を丸め、連れ添ってアンダーグラウンドに向かっていたり、あるいはこれから開演するシアターの前になんだか浮かれた感じで、といっても騒いでるわけじゃない、静かなもんだ、列を長々とつくっている。
 それにしても、ロンドンの街の光は綺麗だ。ただ綺麗というものじゃない。イルミネーションのトーンがある基調を持っているわけで、それで香港や新宿などのような錯雑としたところが非常に稀薄なのである。だから、神経に対する強い違和感といったものをおびき出すことをしない。言い換えれば、たしかに上品な、全体を見渡したところから生じるものがあるということだ。
 しかし、これはあるものを生じさせようとする働きを考えた場合、非常に問題となる点でもある。見渡して結果させるということを拒む、ものの生成ということがあるからだ。
 だから、このような街のどこにいても、人間は肉体である以上、肉体に刻印されたものの性質から、つねにフィットするはずなのだ。
 どこにいても格好がつくわけだ。
 ロンドンの人々は、顔の造作を気にしなければ、東京のどこにでもある街角の風景の中のあまたの人々と変わらない。まあ、美人が多いのは多民族ということと、骨格の問題なのだろうけれどね。
 これは、香港に行ったときに感じた、あの街の印象とはずいぶんかけ離れている。同じ東洋人であるからこそ切実に感じる、文化の問題、つまり東洋の土着的なものと、西欧化された世界文化との、何か異質の人間肉体があるということなのに違いない。
 日本は、特に都市というものは、都市であるからこその世界文化指向にとらわれ、それが前提として成立しているようなところが大きい。
 イギリス人は、すでにローカリティこそ世界性なので、現代と良き時代とのギャップは当然同居するにしても、どこにいたって必ず世界文化なのである。
 つまり、彼らにとって文化とはタイムマシンでしかないようなのだ。
 空間的ではない、時間におけるトポロジーというわけだ。
 頑迷固陋というのはこのようなことから、歴史的なイギリス人をより歴史的な現実に浸らせるということからも、よく性格をあらわしているのかも知れない。
 要するに老衰国家ということだね。
 そうなると、落ちぶれたとしても、これまでの歴史から、イギリスが世界の規範であり続けることは免れないのであって、世界そのものも老衰しているという主張は正しいものに違いない。この世界とは、さっきいったような世界、つまり西欧化世界ということだ。
 さて、なにやら長くなってしまったね。仕事がないので、こうして、原稿が書けるというのも効用だね。時間にそれほどとらわれることもないので、面倒になるまで書き続けられるというものだ。

 昨夜、タンドーリチキンを食べての帰り道、ある劇場の裏口に人がたくさん集まっていた。もちろん、スターが出てくるのを待っていたのだが、僕は誰が誰やらわからないのだけれど、ロンドンっ子のミーハーがどのような生態をしているのかなと思って、観察よろしくその人々の中に混じってみた。路地にポリスが何人か出て、交通整理したり、裏方が荷物をトラックに積み込んだり、次第に出演者が下っ端のほうから出てくる。スターはまだだ。時間がかかってもまだ出てこない。通り過ぎる通行人は、どうせこの辺で遊んでいた連中なのだろうが、軽んじたような顔して笑っていく。これは、ほら、われわれのするようなものだ。しかし、日本なんかより、こっちの方がそうして通り過ぎる連中は多いみたいだ。日本には、特殊におばさんという連中がいて、それが団体でこうしたことにすぐ興奮するね。
 さて、ターゲットはどうもロック・スターのようで、若い女の子などの頬が寒さと興奮のようなもので赤らんでいる。蝶タイをつけた関係者の中には、ちょっとそれとわかる癖のありそうなのがいたりして、そういうのが、出演者の誰彼をエスコートしてどこかに案内していく。
 集まっている人々は数十人といった程度だが、中にはやはりおばさんや子ども連れがいたりして、子どもは周りに何かありそうだと、駆け出しては様子を窺ったりして騒いでいる。黒人は一人か二人、それも子どもがいただけだったな。黒人は笑いもしないで冷淡に去っていく。それはたしかに、この国における黒人問題の現代性、つまり力を持った黒人と人種問題との一種独特の問題を感じさせる。
 モスクワからも飛行機の中だったが、前のシートに大柄な年輩のイギリス紳士が、隣に乗り合わせたと思える黒人女性、これがファッショナブルないでたちで、この女にべったりとくっくつように親切にしている。その口説いている様子から、おそらく、彼女、なんとかガールなのではないかと思うが、でなかったら、この男の紳士性などというものの中身が知れる。もっとも、ジェントリィとは支配の階級的な確立に関わる階級的精神のシンボルなのであるから、そういうことか。
 また、長くなってしまった。
 しばらく眺めていたのだが、とうとうあまりに待たされるので諦めて帰ることにした。
 帰りの道を歩いているときに、静止していたためか、寒さがいちだんとしみ通った。
 タクシーで帰りましたよ。
 帰って、詩を書いてみたので送ります。


the Thames

この目的のための川
にごりながら危うく消える光を返し
返したまま光を映す
このわずかな青空と奇跡的な青空の
息のきれぎれが途切れつつ
なんとこのstrandの老齢の
流れるような歩行という衰弱
まだ迷うには
迷いが足りぬ
しかし 世界のあらゆるところが
影のささぬつまらぬ街角を抱えていたとはいえ
あまりに夜が親しげだ
テームズ
首の流れるゆらめく川よ
王制というものは冷たくなっても死なぬものだ


 書き終わって、今、10:00。これからまた街でも歩きましょうか。
 では、皆さんによろしく。


【ロンドン】
mail 7014:unp063 su drinking toosan ne

 夕方に一度帰るようにしている。やはり、出づっぱりは疲れるし、気分転換にもなる。
 また、根拠地というか、行動の起点のあるなしは精神的にずいぶん違ってくるものである。自分の部屋でリラックスするということで癒やされものがあるわけだ。
 と、こう書いて、ふと何気なく、そう思うことが積み重なると、なにやら懐かしさがこみ上げてきて、こんな汚く狭い、囚人部屋ようなものでも、離れ難くなることだってあるのではないかという気もしないでもない。
 いわゆる生活の記憶というものがしみこんでいくのかも知れない。そう望んでここにやってきたのだが、これは旅行とは大いに違う感覚である。まだ三日くらいで、こんな感覚が気まぐれのようにでもやってくるということは、この街と別れるときは辛いものがあるような気がしないでもない。
 とはいえ、まだまだ予感程度のものである。
 今日は、ピカデリー・サーカスから西はリージェント・ストーリート、ボンド・ストリート、東はトッテナムコート・ロード(これらはみな南北に延びている)までを、それぞの道を1キロぐらいずつぐるぐる回った。
 だから8キロは歩いたろうか。行きは昨日と同じコースで地下鉄を乗り換え、帰りはセントラル・ラインをトッテナムコートからボンド・ストリートで乗り換えて帰った。3:00頃だったか。
 このときの収穫は、イギリスで使えるモジュラージャックのコードを手に入れたこと。
 この部屋はジャック式になっていたのだが、差し込む部分の形が平たくなっており、日本から持っていったものは差し込めなかったので、これまで、アコースティック(echoからきているのかな。スペリングがよくわからない。音響の意。カプラーの説明書がそのあたりにあったと思うが、調べてもらえないかな)coupler、それも日本で買ったものは300bit/secondという遅いもので、これでこの間アクセスをしていた。
 ところが、トッテナムコート・ロードが電気街だとガイドブックにあったので苦労して捜したわけでありました。それで、思いついて買ってきました(このへんから調子を変えて、ですます調)。9.95ポンド。
 そのついでに、アメリカでカプラーの1200b/sのものがあると聞いていたので、イギリスに輸入していないかと聞き回り、こちらははずれ、残念でした(もっとも、これは"Do you have an アコースティック coupler ボー rate 1200?”なんて簡単なことしかきけない)。
 しかし、目的を持って店を回るというのは結構エンジョイできました。黙って歩いていてもなんだか修行のようでね。
 さて、帰って早速カプラーを外して、ジャックを使って通信しました。つまり、内蔵したモデムを使ったのです。どういうことかというと、いちいち電話を手動でかけずに、そしてIDからなにやら、プログラムで全部自動化でき、なおかつスピードが1200b/sを使えるというわけです。君のやっているそのまま、僕がここでできるわけだ(日本の自宅の98はハードディスクに仕込んである)。
 ちなみに、今これを書きながら、カプラーというのはcoupleからきているのだとわかった次第です。なるほど、送話口と受話口か。あの形を思い出してみてください。
 Telecomとの通信は見事に成功しました。
 さて、そろそろ飯に出るかな。
 今日はここでゆっくりしたいな。しかし、やはり頑張って行動しようかな。

 それからTympasの件は、パスワードの悪用を避けたいということに違いなく、僕の家から誰かが盗まなければまず大丈夫。外で頻繁にアクセスする学生やプログラマーとは違うのだからね。
 ほっといていいと思うよ。


鏡子へ
 寒いことは寒いけど、前にほっかいどうにいった程度だよ。今日はいろんなお店を見て回ったけど、たくさんありすぎて中には入らなかったけど、帰る前には買おうと思うけど、とうさん、きっと品物がたくさんすぎてどれをえらんでいいか、目を回してしまうにちがいないよ。
 ロンドンはいま、クリスマス前で、飾りつけもものすごくて、ウインドーを見るだけで、とうさん、くたびれてしまったのでした。


聡へ
 ちかてつのことをアンダーグラウンドっていうんだけど、その中で、ほっぺにあかやきいろなどのおしろいをつけた、つまりサーカスのピエロみたいなお兄さんやおねえさん、おじさんやおばさんが、いろんながっきをえんそうしているんだ。
 じょうずなのもへたなのも、いろいろだね。
 おかあさんにね、いってごらん。アンダーグラウンドって、ここからきてるんだね、って。ん、なんのことかわからない? おとうさんとおかあさんのないしょ。ははは。

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オフクロに
 足の曲げる練習、鏡子に手伝ってもらってやってくださいね。
 そうそう、病院はいつ行くのですか。
 靴の件も真弓とよく相談してください。

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 もう6:00になってしまった。
 このへんで、またね。

 スコッチを呑みながら書いているとーさんでありんす

oyako denwa no tame kaisen ga fusagatte tunagari masen
kochira no yonaka ni mata okuri masu
ichitaro no jisyo wo dasunoga mendo nanode romaji de kakimashita

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