ぶらり宿六ひとり旅 005 |
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11月24日 【東京】 To: LBH050 (10084:LBH050) From: UNP063 Delivered: Thu 24-Nov-88 0:47 GMT Sys 7014 (7) Subject: accident Mail Id: IPM-7014-881124-007070001 大変です。 朝、車のところへ行ってみると、なんとルーフキャリアーがないのです。 きっと盗まれたのでしょう、びっくりですね。 やはり、警察へ届けたほうがいいでしょうか。お返事待ってます。 眞弓 【ロンドン】 mail 7014:unp063 su am0200 tired papa 手紙をもらいました。 まず、技術的なことから。 1 disposition:でdを入力してください。そうしないと、君はスキップの仕方を知らないから、全部最初から読まされるわけですね。 また、これには、Send, Read or Scan:のときにRead UNreadとオプションをつければいいのです。 大文字だけで十分です。つまり、r unとすればいいのですね。間のスペースを忘れずに。こちらでもlogの記録はとってありますから、消してしまってもかまいませんよ。 2 君のファイルの消し方ですが、ログ記録は一つのファイルにまとめてあるはずですね。 だから、ここでは、そうか、君が書いた文書のことか。 えーと、それはね、こんなことができるかな。MIFESで、コピーの仕方を覚えたよね。 まず、最初のMUYUNI1.JXWを読み取るわけ。それから順番にほかのファイルを読みとり、たとえば2番目のファイルのコピーする部分を指定してMAYUMI1.JXWにペーストするわけだ。これを繰り返して、MAYUMI1.JXWに全部集めちゃうというわけです。わかるかな。 集まったら、MAYUMI1.JXWを保存して、MIFESを終了する。 それから、これが難しい。次のようにコマンドしてください。 A:\>から(まず、ルートにいてください) CD TERM\UP\MAYUMI これは、MAYUNI*.*のある場所のはずです。 念のため、 DIR として、そのディレクトリに本当にそんなファイルがあるか確かめてください。 それから、一つ一つ消すのは面倒だから、残すファイルの名前を変えて、後はいっぺんに消しましょう。 REN MAYUMI1.JXW UPMAMI.JXW としましょう。スペースに気を付けて、新しいまとめのファイルをUPMAYUMI.JXWとしました。 この後、これが大変です。いよいよ消すからです。 その前に、DIRコマンドで名前の変えたファイルがあるか確かめてください。 そして、 DEL MAYUMI*.* これで、消したファイルが画面に次々に現れ、不要なファイルがなくなるわけです。 これ以降は、通信に送ったら一つ一つUPMAYU.JXWにいれて、上のDEL MAYUMI*.*の操作を繰り返すわけです。文書を新しくつくるときは、今度はMAYUMI1.JXWだけでいいでしょう。それで、付属のファイルも消えるはずです。 できなかったら無理にすることもないですよ。そのためにMAYUMI\のサブディレクトリをつくったのですから。煩雑になっても、僕が帰ってからいっぺんに上の方法で消そうと思っていましたから。ただ、君が見づらいだけなのだ。ははは。 3 タイムパスの件ですが、はっきりいって無理でしょう。君のほうからこちらにアクセスするのは、オートログインの形で設定していなければ、まだ無理だと思います。 回線の状況とか、手続き上の論理がわからない状態などでは、まずつながらないと考えたほうがいいのです。 僕も、こちらで最初は悪戦苦闘したのです。はっきりいって、マニュアル通りになど簡単にいかないのです。何がつながらない原因なのかを推論しながら、あれこれ試行錯誤することになるのです。 僕がいっているのは、僕の方からそちらにアクセスする方法、つまりタイムパスを使って、KDM、あるいはフランスからTELECOM、あるいはアスキーや日経につなげないかということで、そのための条件、IDやパスワード、現地の電話番号、それぞれのネットワークのシステム番号とその入力するタイミングや方式を知りたいということなのです。 マニュアルは、おそらく日本から外国にアクセスする形でしか書いていないかもしれませんが、たしか、TELECOMとつなげるなら、そこからの各ネットワークのシステム番号があるはずです。 まあ、わからなければそれでいいです。とりあえず、メールをお互いのボックスに送り合うという形ではうまくいっているのですから。そんなに高くはついていないと信じているのですが。 さて、ここまで一気に書いて、やはり疲れます。 また、君を刺激するようなことを書かねばなりません。 別に、悪気があるのではなく、この手紙を一種、僕の獲得したなにものかにしたいという気持ちがあるからです。 やはり、書く場所にいるということは、厳しいところに身をおくという作業につながります。この旅を空気のようなものにしたくないというところがあります。これは、僕が若くはないということからきているはずです。つまり、体験とか、経験とか、学習とか、修行とか、そのようなものは、やはり若い時代のものです。僕はここで、僕自身を生活する、つまり現実に生きているということを自然そのもの、どこにあってもあらゆる自然そのものであるという形で、特殊にどうであるとかということを外してしまいたいのです。 僕は、この街が特殊に外国であるという気がしないのです。 ここは、飛行機で何時間もかけてやってきた、そんな異郷でもなんでもありはしない。 ここは、われわれが常に住んでいる、当たり前の街でしかないのです。 これは、都市というものの現代性、構造といったものからきているのかも知れません。 今のところ、いや、おそらくロンドンの治安は相当いいのだということなのでしょうか。 それは、あります。実例をあげます。 エネルギーの現代的な担い手である黒人が、まず、目つきからして常識的な、堅実なものを持っていること。アメリカや、あるいはその他の国で、黒人の目の底には凶暴なものが必ずあることは、それが抑圧と自由との関係で生ずるところのものであることはいうまでもないが、この国では、知的にそれが抑えられているというような見方をおびき出すような、何か根本的な間違いがあるような気がしてならない。これは、イギリスの国家が立憲君主制をとりつづけられるというような歴史的なあるすり替えと関係しているに違いないと思われる。それは、前の手紙で書くいたような、ジェントリィということとも無関係ではない。 では、ここで寄り道して、レディとはどういうことなのか。おそらくジェントリィが、土豪をさしていることから、金、つまり近代性との関連で、街の女に対するコンプレックス、都市に対する極端な自信のなさ、つまり娼婦をさしているに違いない。もちろん、中世の騎士道における特に対外国の問題で常に国を救うのは閨房であることを考えるなら、このヨーロッパの果ての島国が田舎の金持ちが娼婦に見栄を切るのと似ていなくはない。 そして、この国の女性は、おそらく世界で一番体が大きいのではないでしょうか。 歩き方も、男と同じく、それでなくても常に急ぐ、あの歩きぶりであります。これはなんなのでしょう。もう、急ぐ必要もない国の男女が、共に、区別もなく、せかせかと急いで街中を走り回っている。 それと、世界で一番、女性が、いつでも、歩きながらでもなんでも、やたらタバコを吸う。 ほんとに凄いのであります。娼婦が路上にとどまりながらタバコをふかすのはおさだまりのシーンですが、現代ロンドンのニューウェーヴと目される女性は、街路を駆け回りながらやみくもにタバコをふかす。 これは、まさに同じことなのです。そして、ロンドンの街が、ジェントリィが、世界性を失いながら、このことを逆に頑迷に特殊的に認知している。ここにこの国のなにものかが現れているような気がします。 ところで、元気そうだと君は書いたけど、どうもそのニュアンスに、にこにこ笑って楽しそうね、みたようなものが感じられて、それはちょっと違うよと異議をはさみたい。 例えば、あるカード屋で、ちょうど今ごろはクリスマス前で、その関係のグッズがあふれているので、子供たちにいいものがないかと見ていたら、やはり子供たちのことが思い出されて、ある切なさにひとときとらわれていたのだよ。 なかなか会話がうまく決まらないで、喋るのが嫌になったり、これじゃいけないと何度も本を読んだり、また人種差別を感じたり、そんなことが間にサンドイッチになっているわけだ。はっきりいって、この人種差別というやつは馬鹿にできない。これを感じないやつは、何年人間をやっているのだといいたくなる。ジェントリィというのがおよそ、排外性からきているということは前に述べたね。もちろん、日本人に対しては、彼らは現実的な世界性からそれ以外の好きになれない理由と問題もあるわけだ。 今日は、Sohoのあたりを歩き回った。体がどうも疲れの抜けない状態で、午後から出たのだが、ただ、今回はガイドブックや地図で問題なく入れる店や、興味のある場所をチェックしておいたので、明るいうちはとにかく問題はなかった。 まず、地下鉄でチャーリング・クロスという駅(もう面倒だから、線名や乗継ぎなどは書かない)に行き、飲茶を食べようと、ジェラード・ストリーという中華街に行き、中華を食べた。なんだか香港にいるような気になった。このへんから、ロンドンはロンドンだという気がしなくなってきたのだ。しかし、結構うまかった。 このあたりで気分がよくなり、次にICA(Institute of Contemporary Art)という現代美術の、いわば会館というのか、そこに行った。絵とか彫刻などのオブジェが見たかったのです。建築物というものは日常的にみられると思っていたし、事実そうなのだが……。 そうそう、昨夜は夜出かけて、ビクトリア駅の構内に行ってみたよ。大したものだ。それから、道を間違えながら、ウェストミンスターのほうに行き、だれもいない道をさまよい歩いた。いつもこれをやるけれど、なかなか面白い。夜というのは、趣がまるっきり変わってしまうからね。 もとい、ICAに行ったのは、イギリスの若い芸術家がいまどこまでのことをやっているのか、ということを考えていたからだ。というのは、前に書いた世界性という問題を彼らは常に抱えているからだ。 しかし、やはり、個展を二つしか見なかったが、どうもこちらをひっくり返すようなものは経験しなかった。しかし、面白いことがわかった。雑誌などをそこで買ったのだが、どうもイギリスの美術界では活躍しているのは女性であるらしいということだ。これは、さっきのことともまんざら無関係でもないだろう。 しかし、現代美術を見ることによって、マイナーでもポエットであることの、何か、目とでもいうのか、それが浮かび上がってくるようで気持ちはよかった。 それからナショナル・ギャラリーで、やはり現代美術の女性だが、その個展を見ようとしたのだが、レンブラント展が開催されていたせいで混んでいてやめにした。 それから、サボイ・ホテルの前を通って(この建物は完璧でした。すげえ)、コベント・ガーデンというマーケットに行き、ぶらぶら。野外パフォーマーがいたりして。 実は、この後、ロックかジャズのライブハウスに行くつもりで、今日は出たきり夜まで帰らないと決めていたのでした。その途中で不愉快になったのでした。 ここまでくるのが長かった。 相手はガキだから、怒る気もしなかったわけで。 イエロー、ミスター・イエロー、といわれたのです。後で考えるとそういっていたはずです。ちょうどロック屋の前でメニューを読んでいたとき、中学生くらいかな、団体で後ろを通った連中がいて、その中の一人が何度も叫んでいるわけです。 最初、よくわからないので、イエオー、イエオーと聞こえたわけです。通り過ぎて向こうに行ったとき、ミスターとついたので、これはそうなのだとわかったというわけです。 子供がそう言うということは、その親にして、ということで、それもそんなに特殊なことではないということははっきりしています。 これで気分が悪くなり、その店はやめにして、今度は100 CLUBというジャズ屋を探しにかかりました。途中で、ここは昨日の電気街の通りを通るので、思い付いて、モジュラージャックの二股差込み(dual outlet adapterと書いてありました)があったので買いました。 昨日までは、いちいち差し替えて使っていたのです。それから、切手屋があり、子供たちのおみやげ第一弾を買いました。このあたりでまた気分をもり返したわけです。インド系のきれいな子の愛想がよかった。しかし、この国では、どうも白人以外の職種の制限が歴然とあるみたいで、僕はその点が嫌な気がしてならない。 100 CLUBはまあまあののりで、悪くはなかったが、どうも年寄りのリーダーのテンポが少しずれるのを気にした仲間が思うようにいかないのでいらつき、あんまり仲がよくなかった。音にそれが現れている。ニューオリンズジャズなんて、生は初めて聞いた。Monty sunshin' bandという。客も中年以上がほとんど。彼らは踊りのためにきてるんだな。チャールストンまで出たよ、それもうまいうまい。夫婦で仲間をみんな集めてやってくるんだな。 さて、この文章は一気に書いているのですが、机が尋常な高さでないのでもう疲れました(実は、タンスの上で書いているのです。この上に電話があって、コンセントもその下なもので)。 明日は、大英博物館とか、ロンドン塔、これは観光嫌いの僕でも行くつもりなので、ただしどうなるか。 では、おやすみ。 いや、ほんと疲れたぞ。 書いているうちに酔いもどこかにいって、 ただ背中と肩が凝っているとーさん いま読みました(ルーフキャリアの件、笑ってしまった)。届けなさいね。保険もきくかもしれないよ。とりあえず。 【東京】 To: LBH050 (10084:LBH050) From: UNP063 Delivered: Thu 24-Nov-88 2:43 GMT Sys 7014 (7) Subject: 'osokunatte gomen' Mail Id: IPM-7014-881124-024520001 緑字斎さんへ いろいろと大変なんですね、ごめんなさい。 手紙、3通きていましたので、最初の分だけaドライブに入れました。これから警察に届けます。 眞弓 【東京】 To: LBH050 (10084:LBH050) From: UNP063 Delivered: Thu 24-Nov-88 7:32 GMT Sys 7014 (18) Subject: 'to my darling' Mail Id: IPM-7014-881124-067910001 おかげさまで、うまくいきました。これからは煩雑にならずにすみそうです。それと、交番へ行って被害届を出してきました。 朝、駐車場へ行ったときは、本当にびっくりしたんですよ。あんなもの盗まれるなんて、考えてもみませんでした。まあ、大したことじゃなくてよかったと考えることにしました。 きのう、子供たちはお義父さんにおみやげをたくさんもらい、そのうえマルエツでおもちゃを買ってもらいました。「駄目じゃない、おじいちゃんにおねだりして」と怒ったので、おじいちゃんが、「おとうさんがいなくてかわいそうだから」とかわりに言ってくれましたが、いけませんねムダ使いさせて。お義母さんはお義父さんに少し太ったねと言われて、晩ご飯を食べませんでした。いま、歯医者さんに行っています。少し歩けるようになるといいのですが。 そちらではだいぶシビアな生活をしているようですね。私もただ羨んでいるだけではありませんよ。大変なんだろうなとはもちろん思っています。どうやら予想以上のようですが。とにかくまだ先があるので、あまり無理をしないでね。それでは、また通信します。 眞弓 *** 前頁 次頁 |