ぶらり宿六ひとり旅 013



11月30日

【ロンドン】
mail ar 7014:unp063 su 0:30am london

 いま、前のメールの全体を読んでいてわかったけど、中身のないメールというのはアクノウレッジ・メールだ。
 つまり、君がメールを送るときにオプションでarをつけたでしょう。あの返事です。
 君のメールのタイトルに対して、acknowledgement of:の形でそれが返されるんだ。
 僕が君の手紙を読んだということが自動的にメールの形で、君のところに届くわけです。
 アクノウレッジうんぬんが追加されてメールがヘッダーとタイトルだけで終わるのです。

 以上


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Wed 30-Nov-88 6:40 GMT Sys
7014 (1)
Subject: Acknowledgment of: 0:30am london
Mail Id: IPM-7014-881130-060110001


【東京】
(KDMから、問い合わせしていたフランスからのアクセスについての返事があった)
To: LBH*** (10084:LBH***)
From: A.S (KDM***) Delivered: Wed 30-Nov-88 8:02 GMT
Sys 7014 (36)
Subject: FRANCE KARANO ACCESS HOUHOUNITUITE !!!
Mail Id: IPM-7014-881130-072410001

Dear Mr. RYOKUJISAI SAN

 早速のご返事有難うございました。
 日本語のメールが打てて内心ほっとしています。Travelboxの件につきまして先方より返事がこないので本日、催促の手紙をうちました。返事がきましたらまたご連絡致します。
 さて、TYMPASの件ですが現在詳しい情報がないので何とも言えませんが、少なくともKDMにはTYMPAS経由ではアクセス出来ません。
 英国の情報の中にも日本からのアクセスの中にTYMPSは載っていませんでした(システムプロンプトで INFO ACCESS COUNTRIESと入力すると表示されます)。
 日本->米国->英国のルートなら出来そうな気もしますが……。
 次に、フランスからのアクセス方法ですがそれについては以下に示す通りです。

 ・国際電話を利用する場合
 Telecom Goldの電話番号
300 bps ---- 01-583-3000
1200/75 bps ---- 01-583-1275
1200 bps ---- 01-583-1200

 国際電話   英国の   市街   相手の
 識別番号   国番号   局番   電話番号
19 ---> 44 ---> 1 ---> 5831200

 ・国際データ網を利用する場合
 (例えば、フランスのTRANSPACを利用する場合はそことの契約が必要となるようです。)
DNIC: 2342 Telecom Gold System 84: 1920100484

 Best regards,
 A.S


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Wed 30-Nov-88 9:18 GMT Sys
7014 (8)
Subject: '6:15 pm'
Mail Id: IPM-7014-881130-083720001
Acknowledgment Sent

 おはようございます。今日はお義母さんと病院に行きましたが、Y先生(人工関節手術の権威)が休診。
 仕方なく、薬をもらって帰りましたが、帰りの電車を途中下車してデパートへ行きました。靴を探そうということだったのですが、ウォーキングシューズは紐のものが多く、履くときに苦労するからと、一応やめました。
 おみやげを買って帰って、食事をしてひとやすみしたら、もう3時でした。
 その後、今度は聡の歯医者です。ついでに私も歯石を取ってもらうことにしました。
 あわてて帰って今度は少林寺です。忙しいこと。あとでまた手紙を書きます。それではさようなら。

 鏡子・聡
 がんばりまーーす。


【ロンドン】
mail ar 7014:unp063 su am9:50 30 london

 目が覚めました。
 今日はロンドンのまとめに入ろうと思います。
 ロンドン塔と、もう一度大英博物館に行こうと思います。
 そして、本屋で辞典などを買おうかな。

 明日は準備に入って、明後日の朝にドライブ旅行に立とうかなと考えています。
 今日が水曜だから、金曜日からというわけです。
 早いとこレンタカーの予約をしなければ、ね。

 おふくろの具合、どうですか。
 部屋に閉じこもりきりにならないように、くれぐれも注意してください。

 そんなわけで、買物も少しして、明日また送るものは送ってしまおうと思います。荷物を持って出るのはいやですからね。

 ところで、場所が変わると通信もどうなるか分かりません、
 電話の状態です。
 まあ、今度は無理に安宿とは考えていません。
 だから、大丈夫だと思いますが。

 だから、これから少し外出します。
 夕方には一度戻ってきます(日本時間午前3:00)。


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Wed 30-Nov-88 14:33 GMT Sys
7014 (15)
Subject: '11:30 midnight'
Mail Id: IPM-7014-881130-131000001
Acknowledgment Sent

 おかえりなさい。
 大英博物館とロンドン塔はどうでしたか。もうすぐドライブ旅行ですね。
 くれぐれも車には気をつけてください。まあ大丈夫でしょうけどね。
 アクノウレッジのことは、プリントアウトしたものをよく見ているうちに気がつきました。ばかですね。いつもある連絡が入ってなかったので(回線がつながらなかったとき)てっきり文章が届いてないと思ったわけです。
 仕事のことは、いったいどうなっているのと、こちらがいいたい気分です。
 まず河内山(初校ゲラ)が出てきません。それから****(再校ゲラ)は今週の末か来週の初め、そして、シナリオは木曜の会議待ちといった具合です。なお1月発売に関しては、Yさんによると、12月10日までにS*(原稿)があがらなければ、文庫はなしになるそうです。いいのかしら、知りませんよ、もう。
 といった具合でありまする。
 お義母さんは朝とにかくだめだそうですが、今日は時間がないからと電車で行きました。
 途中でデパートに行ったりして、結構楽しそうでしたよ。ただ、疲れたとはいっていました。これでもし明日足が腫れなかったら、また少し自信ができるのですが。
 子供たちと明日ジャスコ(スーパーマーケット)へ行くので、ひょっとして元気ならばまた一緒にいくかも知れません。
 というわけで少しずつ出歩く自信をつけられればと思います。
 ではまた。いま聡がやってきました。いつまでも寝ない悪い子ですよ。
 そうそう、今日、少林寺の帰りにお父さんを思い出して鏡子が少し泣いてしまいました。ちょうど思い出してしまう頃なんですね。でも少林寺もがんばっているし、元気です。
 では、明日の朝のメールを楽しみに寝ます。おやすみ。
 眞弓


【ロンドン】
mail ar 7014:unp063 su 8:40pm 30 london

 今朝は青空が見えて、なにやら気持ちも調子がよかった。
 ただ、少しだけアルコールが残っているような感じがあったけど、ただの寝不足なのかな。とにかくさっさと出かけてみました。

 まっすぐタワー・ヒル駅に、ここにTower of Londonがあります。ビクトリア駅を西の方から回って、アンダーグラウンドに乗りました。もう、地下鉄は自由自在です。当たり前か。
 見たものは大したことはないのです。資料も、拷問道具の資料なんてなかったし。
 ああいったものは、あまり積極的に出さないのでしょう。
 日本語のパンフレットがあったので買いました。大したことは載ってないけど。
 城の中に入り、首切りの場所に行きました。タワー・グリーンというらしく、芝生の一角に石を敷き、その場所で首が打ち落とされたということです。薪を割るように、まさかりみたいなもので首をはねるのです。
 たしかに、その場所には気配が濃厚にありました。僕は人間が人間の首をはねるなんてことは、どうしたって許せないことだと考えます。これは、ただの人道主義とかいうものではない。また、思想なんていうものではない。このことはなんでもないというところからかーっと湧き上がってくるものなんですね。
 それから、ブラッディ・タワー。後で、そのパンフレットを見てください。ここは王家の人間はじめ、いろいろと幽閉されたりした場所で、そのときの形で残してあるようです。拷問や、処刑もあったらしい。
 さて、拷問具の展示ですが、城の裏のなにやら暗い感じの建物の上にあるのですが、といっても、どこも古い、中世から近世にかけての石造物ですから、きれいで明るいわけはないのですが、ここにいくつか展示されていました。大した数じゃない。というのは、たくさん展示すると、刺激が強いからじゃないかな。僕はそう理解しました。
 だって、パンフレットにはその写真すら載っていない。
 ここでも、僕は強い腹立ちをずっと感じていました。拷問するために、何人かの人間を使って、機械を使って、その道具を作り出す、こういうことにです。
 鉄の製品一つ作るのも、特に現代人には個人のレベルではその設備もありませんから、簡単に作ることはできない。
 ところが、権力というのはそれをいとも簡単にし遂げてしまう。それを考えるのも、指示するのも、作るのも、ただの人間なのです。これはなんということでしょう。
 道具は、首と、両手と、足を前の方に固定するような鉄具、仮面のように、内部に刺のようなものがあったり、口の中に押し込まれるような鉄の突起がついていたり、首かせになっていたり、その頭には鉄でできた鈴がついている、そんなものがいくつか、それから例のまさかりと首切り台、空中に吊り下げるようになっている篭のようなもの、その他ですが、思ったほど展示されていない。
 しかし、十分怒りが、悲しみが湧き上がりました。
 ここには、世界最大のダイヤモンドがある、つまり王家の宝物庫になっている。
 死、権力、富、これらが象徴的に示される場所なのです。
 そして、このことがあればこそ、この場所の悲劇も存在するわけです。
 けれど、これはつまらないことなのです。
 何が王家だ、何が財宝だ、何が権力だ、僕は歩きながら、ずっとそう思い続けていました。この場所は、たしかに亡霊が出そうなものを持っている、これは確かです。
 しかし、そのような亡霊は呪われろ、そのような城は呪われろ、です。
 僕は、王笏や王冠や、王剣の数々も見ました。
 すさまじい金の氾濫、宝石の数々、ダイヤモンドの大きさ、あのアフリカの星。
 しかし、こうしたものがなんだというのでしょう。
 僕はこのような物欲にも、権力欲にも関心がどうも涌かない。
 一応見ましたが、列が進まないのでいらいらしていた。
 そのほかは、武具の展示でしたが、話すだけのこともないので、といっても僕が興味がないだけで、専門家にしてみると凄い数だし、大変なものなのでしょう。
 けれど、感じましたよ、凄いものは。
 あの城から立ち上がるものは尋常ではない。
 イギリスの最暗黒の部分があそこにあるわけですからね。
 僕はそのようなものに触れてみたいと感じていたので、これはこれで貴重な体験でした。
 この古城、この荒涼とした歴史というものの証明、人間が人間をどのような精神で扱ってきたかを示す、事実としてあるわけです。
 僕が許さざるべきものの一つの形として、ここもまたあるのです。
 王国と、近代資本主義、崩壊に向かう世界。

 さて、このようなことはつまらなかったということではないのです。
 精神に刺激を与えられるということは、僕は歓迎しているのです。
 だから、この観光的な扱い方はともかく、ここの城に感じたある種のものは実に興味深いことなのでした。

 朝から何も食べないで出てきたので、思いついて、この間入りそこねたDicken's innに行ってみました。
 セットメニューはないので高いのは覚悟です。
 12時を少し回って、今日はとてもすいていました。
 黒人の若いウェイターが、非常にフレンドリーでときどき話しかけてくれます。ここでなにして働いてるの、なんて聞くんだ。僕がここに住み着いてるように見えたのかしらん。
 ローストビーフと、彼の勧めによるボジョレーの本年物ハーフボトル、およびアボカドとシュリンプのアペタイザ。
 まず、パン、この胡麻のまぶしたパンがよかった。ワインが本当にうまい。
 どれも、実によかったのです。たまに贅沢はするものですな。
 ローストビーフはウェルダンにしました。なぜかというと、ローストビーフは脂が強いので、ミディアムくらいじゃちょっと困るかなと考えたのです。
 これも正解。テーブルの横でカットしてくれました。自慢するだけの味であります。
 イギリスは食事が駄目だというけど、そんなことは絶対にない。これは断言できますよ。
 そして、あとで紅茶。これはティーバッグでありました。
 しめて、26ポンド、チップは込みです。VISAを使いました。

 満腹して、満足しながら、その近くで葉書を買いました(例の高級品店と思いきや、大したことなかった店です。ヨットハーバーになっているから、勝手にそう思い込んだんだね)。
 それから駅に向かい、しばしロンドン塔を眺めていました。
 亡霊の心安らかに眠りたもうことを念じながら。

 気分が断然よくなってきたので、今度は大英博物館。
 まず、ライブラリィで、物書き、音楽家、歴史関係の人、ニュートンなんかまでの自筆の文書を見ました。
 それから、カタログ類を先に買い、葉書も買いました。ミイラの写真があったのです。
 僕は写真を撮りません。だって、撮りたいようなものは、特にこのへんのものは絵葉書で十分でしょう?
 ドライブの時は少し撮ろうかなとは考えています。フィルムは入手してあります。
 今回は、ギリシア、いやこれも凄い。途中で僕はうれしくなって涙ぐみそうになりましたよ。僕の詩の中に出てくる世界、器物も、神も、神殿も、レリーフ、実にうれしかったのです。
 このギリシアの世界は、ラテン特有の巨大人体、いや巨人族のものなのですね。
 ただ、イタリア、まああれはルネッサンスという特別のものでしたが、あれとは異なり、もっと神の世界に近いのです。たとえば、肉体の感動的な美しさというものは、人間の動物性に向かうのでなく、明らかに神という、それも人間に近しい神の一族との好運な共存関係を現している。
 これは、やはりすばらしい世界なのです。
 しかし、それでも人間の歴史は戦いの連続なのですね。神殿の上の方に張り巡らされたレリーフ、連続してつながるこの多くのレリーフは、ほとんど戦争の様子を現しています。
 ギリシア神話というのが、まさに戦争の話ですから、いまさら感心すべきでもないのですがね。
 それにしても、巨大な大理石や、石膏や、ブロンズや、ものすごい絵巻物でありました。
 もっと時間がほしかったのですが、どうも閉館が近いらしく、けれどそのおかげで静かに見ることができました。
 ここも、大感動ものでした。

 その後、Foylesという、世界一らしい本屋の地下で、英語の辞典を買いました。
 現代語が多いものと思いましたが、こちらの広辞苑みたいなものがありましたので、これを買いました。イラスト付きなので、そのうち威力を発揮するのではと思っています。

 これらは、明日、郵送します。郵送費が馬鹿にならないけど、持ち歩くよりはいいよね。

 後、明日はレンタカーの手配をしなければならない。それと、マダムに旅行のことを話し、可能なら、いない分の金をいくらか戻せないか聞くこと。後の方はまず無理と思いますがね。
 具体的な日程は、後で知らせますが、僕自身がこの国のことをよく知らないのだから、どうなることやら。

 今晩は、遊びに出ようかなと思います。ナイトクラブかディスコに行ってみようかな。しかし、どうもああいうところは、最近趣味じゃないからな。ははは、前からそうか。
 けれど、ロンドンに来たら、どうしてそのような都会的なことをしなければならないのだろう、これはやはりどこかおかしいとも思う。
 どうも、僕は、最近少し、旅だとか、外国だとかの感じ方が変わってきたような気がする。これは、昨日も書いたけど、この街に馴染んできたせいかも知れない。
 着飾って遊ぶというのは、やはりハレの行為であって、ロンドンに暮らす人々がいつもいつも遊び回っているはずはないじゃないか。
 僕らは定点にいないから、どうしても、ナイトライフが日常的だと思いがちだけど、特別の金持ちとか、ほんとにふわふわして遊ぶしか能のない連中は別にして、ロンドンという都会に住む人間の普通の暮らしはやはり別にあるのだ。
 こんなことは当たり前だけど、何しにロンドンまで行ってきたのという考え方の中に、どうもこんなところがあるようだ。
 旅をそのような外側だけでするのも、一つの刺激なのだろうが、僕はこの間よく考えるようにしているので、どうもそんなやり方に疑問を覚えるようになってきている。
 また、もう一つ、人間を知るという問題もある。これは、実に難しい。ほんとは、これが一番難しいのだろう。そして、これはやはり定点に住み着くということの問題なのかも知れない。

 どうでしょう、君の考えも聞きたいな。


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