ぶらり宿六ひとり旅 015



12月2日

【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Fri 2-Dec-88 6:40 GMT Sys
7014 (17)
Subject: '3:40 evening 2'
Mail Id: IPM-7014-881202-060060001
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 おはようございます。ゆっくり眠れましたか。
 いよいよ出発ですね。気をつけてね。
 連絡の取り方については、よく考えておかないとね。今度は移動しているのですものね。
 P*の件ですが(週刊誌P*の製作に関して小生のいない穴を埋めるため、人事の確認を頼んでいた)、Kさんに連絡が取れました。
 Hさんから、少し早まって8日から13日までになったと知らせてきたそうです(出張校正の日程)。8日の日はKさん、Uさん、MHさん。9日から10、12日(たぶん大丈夫とのこと)とSさんに頼んで、13日はT社の忘年会のため、Mさんのところ(編集プロダクションDのこと)に頼むことになるだろうとのことです。Tさんが帰ってくる(夫婦でスペイン旅行中)のが10日で、仕事は12日からになるから、12、13日と仕事してもらってKさんが休み、といった形になるだろうとのことです。念のため、11日は日曜ですので。
 HさんとSさんは外出中、Uさんは電話番号が見つかりません。番号のありか、教えてください。
 Kさんがうまくやってくれているようです。では、よい旅を。
(以上、仕事の打ち合わせ。出演は皆、編集関係者)
 眞弓
 nakano ni hagaki ga todoita soodesu kochira wa madadesu   mayumi


【ロンドン】
mail 7014:unp063 su 7:30am 2 london

 さてと、10:30にいよいよ出かけます。
 こちらは7:00というのにまだ暗く、今日は少し寒いかも知れない。

 仕事のことですが、いつもいうように、K君だけに連絡とるのは危ない。
 これを承知してください。
 だから、ちゃんと他の人にしっかり確認をとってください。
 Mさんのところにも、電話して、このようになっているけど大丈夫ですか、と確認してください。
 彼の電話はD*で載っています。K君はJ*です(アドレスブックの会社名)。
 Uさんの電話はこちらもわかりません。どこかその辺のメモにあるんだろうな。コンピューターの中にはありません。こちらに同じninja(データベース)の住所録を持ってきてあるので、その中も見ました。
 K君にでも聞いてください。

 こちらはこれで一度コンピューターを外して荷物を作ってしまいますので、次の宿泊地が決まるまでアクセスできません。
 では、行ってきます。


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Fri 2-Dec-88 13:11 GMT Sys
7014 (16)
Subject: '10:15pm 2'
Mail Id: IPM-7014-881202-118780001
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 今はどのへんですか。周りはどんなところでしょう。
 緑が多いんでしょうね。
 ところで、Uさんの電話番号ですが、Kさんもメモをなくしたらしくわからないそうです。Hさんが調べてみてくれるといっていたそうですが、そのHさんには連絡取れませんでした。何度かけても運悪くいなかったのです。
 土、日と休みなので、連絡は月曜日になります。Mさんは明日になれば連絡が取れるそうです。というわけで、今日は電話をかけまくりました。
 さて、****(進行中のT社A編集部の文庫本)ですが、ひどいことになりました。
 TBさん(印刷会社の営業)と連絡が取れず、連絡が取れたのが今日になり、結局、再校を出さずに青焼きをかわりに出すことで押し切られてしまったそうなのです。
 A編集部としても困るということで抗議したそうですが、とにかく発売が迫っているのでしかたないということになったそうです。Fさん(担当編集者)も怒っていましたが、困るのはこちらの方で、おまけに超特急なのです。Nさん(校正者)には連絡してよく事情を説明しました。とにかく気を入れて読むしかありませんね。
 シナリオの打ち合わせが月曜で青焼きも月曜、全ては月曜からです。
 では、またメール出します。そちらのメールも待ってます。
 しかし、編集部はやはりなめられているのでしょうか。はは、かわいそう。
 こちらもがんばりまーす。
 眞弓
 追伸 いまお義父さんから電話があって、今度の日曜に新幹線で玲子さん(小田原の方に嫁いでいる妹)のところへ行くそうです。横浜で泉ちゃんと会って、それから行くんだと張り切っています。
 ここのところ、23、27日と来てくれるたびに、子供たちにおもちゃなど買ってくれるのです。だめだよ、おねだりしちゃと叱るのですが、子供たちはだっておじいちゃんが買え買えっていうんだよと澄ましています。お義父さんとしては羽を伸ばしたい気持ちはわかるのですが、ついでに温泉にでもといっていたので、やはり出歩きすぎの気もします。
 お義父さんとしては、こうやって電車に乗ったりするのがリハビリにいいんだと大張り切りです。
 緑字斎にも一生懸命がんばってると伝えてくださいといっていました。では、また明日の朝。7時頃にメールを覗いてみます。
 眞弓


【ケンブリッジ】
mail 7014:unp063 su 4:30pm 2 Cambridge

 いまホテルに落ち着きました。
 やはり、道に迷って、それでもなんとか午前中にはロンドンは出ました。
 車の扱い方もようやく分かって、やはり細かいところが違うんですよ。

 結局、一番近い、ケンブリッジのUniversity arms hotelにしました。
 1泊42ポンド。
 この学生のたくさんいる可愛らしい町に泊まると日程が足りなくなると思っていたので、どうでしょう。
 ただ、はじめはここに泊まるつもりでいたのです。まあ、後は馴れてきているので、もっと距離を延ばせるでしょう。
 電話 0223-351241 112号室
 いやあ、これまでと雲泥の差。なんでもかんでもあるんだものね(ホテルの設備に感心している)。
 ただ、電話は外れないので、300ボーの低速運転です(カプラーを使用している)。
 とりあえず、落ち着いたので、そのことだけメールします。
 詳しくは、夜にでもまた。いいのだろうね、こちらの時間だけ書いて。

 ところで、例の電話は、別にすぐという意味で言ったわけじゃない。
 仕事に間に合えばいいのだから、そんなに慌てないでね。

 T社の方は、しかたないね、もう統一にこだわらないでやるしかないよ(校正上の、表記の統一)。
 どうしても気になるというものを直すようにして。
 そのへん、担当の人に了解をとっておくのですよ。
 Nさんにも、完全な間違いだけと指定してください。

 おやじにいっといて。
 まだ、解決してないのだから(負債の処理)、もう少し我慢して、おとなしくしてほしい、と。
 はっきりいって、まずいよ。
 それに、お金を使うのは、どうなるか分からないだけに、恐ろしいことです、と、僕の書いたこの通りに伝えてください。

 では、とりあえずここまで。


【ケンブリッジ】
mail 7014:unp063 su 8:30pm 2 Cambridge

 なんか知らないけど、結構喋れるようになっている。
 もちろん、通じないところは駄目だけど、なんか通じるし、相手のいうことがなんか分かる。
 言葉というよりも、知ってる単語と、こちらが無理やり喋ろうということと、もちろんある想定問答集みたいなのを描きながら類推するのだけど、これまでよりも、えい、やっちまえ、みたいなところがあって、それで話がつながるんだね。
 まあ、ここが学生の街だし、どこに行ってもやはり知的で、シンプルで、優しく、つまり田舎臭いわけだけど、そのせいかな。
 でも、今日は涙ぐんでしまいました。
 遅く着いたので、昼飯も抜きで、ぶらぶらしながらパプを回り、結局飯をPIZZA HUTで食べました。
 馬鹿にするない(この手の店を利用するのが楽しているという感覚から)。ピザじゃなく、えーとスペルが分からなくなったけど(あとに出てくるパイの名前)、いまイギリスではDeep panが全盛なのです。つまり、厚焼きピザ。君は薄焼きがはやってるなんていってたけど、残念でした、ナウイのは厚焼きです。
 なんて、馬鹿いってるけど、ちょっと酔っていい気分だからです。
 僕の食べたのは、ピザではない、と書いてあるのです。
 説明すると、厚焼きピザの中に、何と、ミート風のパイを仕込んであるものです。
 これは、結構いけました。
 考えてみれば、誰かが思いつくのですよ。
 で、それでサラダとワインとやりながら店の中を見ていると、結構混んできているんですね、待っているキューの家族連れに3人姉妹がいたのです。
 ここの国の子は大きいから、もしかしたら上の子が鏡子くらいかな、可愛い子たちで、見ているうちに、まいりました。こんなことは他人にいうなよ。珍しく、ハンカチが出てしまった。
 でもね、こういうことは結構こたえるんだね。しかし、こういうことを越えるのが、やはり一番大きいことなのかも知れない。
 僕たちにとっても、子どもたちにとっても、ということです。

 しかし、ロンドンと比較すると、さすがに優しい街だとは思います。はっきりいって、僕なんかがにらみながら歩いた方が、恐いのですよ。
 ここは、京都とか、いやもっと楽な札幌みたいなところです。
 いい街なのですよ。のんびり暮らすには。
 おそらく、学生街だからよけいそうなのでしょう。
 そういう意味では、逆に生活感覚のかけ離れた場所なのかも知れない。
 ソーホーなんかが別の意味で生活感覚がかけ離れていて、時代とか、何か強い刺激とかの世界なのに比べて、ここはある意味で隔離されているのかも知れない。
 僕の借りてたビクトリア周辺は、いわば普通のロンドンの下町で、世界性という感じとはまた違う。
 しかし、ロンドンであることによって、イギリスの田舎ではないわけです。こういう違いがある。

 これからは、田舎めぐりになると思います。
 はたして、それが僕にとっていいのか、悪いのか。
 イギリスにとってはいいに決まってるけどね。
 イギリスは、僕に田舎を見せて、見る分には田舎はどこに行っても悪いわけはないのだから、あるロケーションを植え付けるかも知れない。
 そうなると、ロンドンの無意味なごった煮の方がもっと衝き動かすものがあるのかも知れないな。

 こればかりは分からない。
 ただね、僕はスコットランドの、特に冬のね、荒涼とした姿を見たいのだ。
 さかしい人間のつくりだした物に、敢然としてそっぽを向くその厳しさをね。
 そうなのだよ。
 僕が北に向かったのは、イギリスの世界性をいつでも拒める形で、特に冬の寒い季節に自らを現す、その途方もない荒涼感をこの目で確かめたいということなのだ。
 これは、アイルランドの問題にもまんざら関わりがないともいえない。

 しかし、この場所で、イギリスの知的階級が作られることは事実だ。
 彼らは、良くもあしくも、イギリスのリーダーシップをとるのだから。
 このギャップはなんだ。
 ソーホーで、音楽とわけの分からないニューウェーヴが世界の先頭を切っていると思ったら、結局、ケンブリッジやオックスフォードの滅菌室出が実際のイニシアティヴをとるわけだ。
 そうすると、ロンドンの若い連中の迫力とはなんなのだ。

 僕たちが新宿にいた頃、僕たちは世界性というものをただの物質性だとか、即物的なものとは考えていなかった。
 僕たちは、非常にセンシブルで、その分傷ついてばかりだったけど、メジャーとしての世界という感覚は持たなかったはずだ。
 おそらく、これが大きな違いだ。
 僕が、現代アートと呼ばれるものにこのところ常に違和感を抱く根本、これがおそらくそうなのだ。
 これは、きっと発見だぞ。
 僕は、この旅に出て、本当にものを考えている気がする。
 自画自賛ではない。もう、そんな感覚でものを考えているのではないからだ。

 さて、イギリスの郊外とは、どこまで行っても緩やかな丘と、あのほんとに絵に描いたようなイギリス風農場と牧草地が続き、しかし、空はあくまでダークで、荒々しい雲が蝟集する。
 冬の牧草地、土色をした麦畑、何かが潜んでいるような森や、林、何代も前からきっとこんな景観であるような大きな樹々、チェスナット、胡桃の木。
 あの嵐が丘の、あのどこまでも続く荒涼とした農園、絶え間のない丘、真冬の底知れない暗い風。
 僕は、車で走り続けたこのロケーションは、東北でも、北海道でもないと感じていた。
 これは、やはり生活の事実が歴史の向こうに追いやられているのではないか、と。

 この続きは、僕はもっとこの辺りを見て考えなければならない。
 スコットランドとは、そのようなものを僕に与えて暮れるに違いない。

 明日は、予定より先に足を伸ばすかも知れない。
 ノッチンガムを越えた田舎に行くかも知れない。
 スコットランドは、かなり遠いのです。

 ちょっと酔いながら。


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Fri 2-Dec-88 22:37 GMT Sys
7014 (7)
Subject: '7:30 morning'
Mail Id: IPM-7014-881202-203570001
Acknowledgment Sent

 いまメール、読みました。感動ものの手紙です。
 これからの旅が、もっと本当の姿というものをわからせてくれる予感がしますね。
 とても楽しみです。
 明日は日曜、中野が来てくれることになっています。
 帰ってきたら、聡に独楽を教えてあげてね。みんなやってるけど、うまくできないようなのです。
 鏡子は、寝る前にお父さんと3回いって夢を見るんだ、といっていますが、成功したかしら、起こしてみることにします。
 では、夕方までにもう一度メールだします。
 眞弓


【ケンブリッジ】
mail 7014:unp063 su 12:00pm cambridge

 いま、部屋に戻りました。
 やはり、少ししゃべれるみたいです。
 ホテルのバーのおばさんと世間話をしました。
 日本人のホームステイがいて、書くのは完璧だけど、しゃべれない、日本人はおかしいな、という話ですが、結構通じて、楽しい思いをしました。
 つまり、下手でもなんでも、僕みたいにしゃべるのがいい、それも、通じているんだ、ということです。
 その後、学生の常連がいろいろ話していましたが、なんとなく、聞き取れるんですよ。
 もちろん、きちんとした意味とか話の内容なんか、よくわからない。けれども、聞き取れるんですね。キングスイングリッシュのせいかな。
 たしかに、ここの英語はそうなのかも知れない。
 おばさんが、スコットランドの言葉は大変だよ、といっていました。
 もう、体で意志を伝えるしかないと。
 だから、僕は、I will doといって、大笑いしたわけです。
 もっとこの辺りで呑みたかったけど、明日も運転、あきらめました。
 このホテルのパブは若い連中で大人気なんですがね。

 次の停車駅は、ノッティンガムを通り越して、いきなりリーズかヨーク、宿泊は、ブロンテ姉妹のハワースなんて考えています。
 荒涼たるイングランドの冬の夜を体験しよう、と。
 そして、次の日は一気にエディンバラ、なんとか予定の日数でできるだけ北へ行きたい。
 車はずいぶん馴れたので、距離をもっと延ばせると思います。
 いやあ、これは北海道旅行くらいの感覚ですよ。
 地図、見てますか。

 明日の朝、出がけにメール見ますので、よろしく。
 こちらとの時差は分かったの?


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