ぶらり宿六ひとり旅 017



12月4日

【ハワース】
mail 7014:unp063 su 9:00am 4 Haworth

 少し二日酔いです。
 いやあ、すごい。
 ようやく、8時を前にして外が明るくなりました。
 昨日は一日雨だったようで、このハワースの荒涼とした景観にさらに凄味が増していました。
 今も、少しやんでいるとはいえ、寒々とした空と丘が見渡せます。
 このホテルは丘の上にあるのです。
 というより、この町の中心が丘の上にあるといえるのでしょう。
 昨夜は、遅目にラムを食べた後、下のパブで呑んでいました。
 ここは小さなインなのです。
 町の連中が、土曜日のせいか、どっと押し寄せ、いやはや大変な騒ぎ。
 僕も、随分大勢の人と話しました。
 いろんな話を、それこそ哲学的なことや、下の話まで、若いのや年寄りまで、めちゃくちゃ英語で話しました。結構通じますよ。
 いやあ、面白かった。
 おかげで二日酔いです。
 朝はいま食べました。
 すごいブレックファストです。
 厚いベーコンが2枚、卵、焼きトマト3、大きなマッシュルーム沢山、ブラウンブレッド、紅茶、やはり田舎の方が豪華ですね、朝食は。

 雨で濡れたこの町の様子でも少し見ようと思いますが、とにかく外は寒い。けれど、部屋の中はとても暖かですよ。

 今日は、エディンバラにまで行こうと思います。早めに着ければいいのだけど。
 10:30くらいにここを出ようと思います。

 ところで、ここのところ、キャッシュの出を抑えるため、VISAを使うようにしていますので、よろしく。それと、宿泊代のこと、まだ許可が出ていないよ。
 ちなみに、ここは20ポンドです。
 次の通信は、可能ならば夕方ですね。
 しかし、泊まるところによっては、分からないな。

 スコットランドに入ります、のとーさんでした


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sat 3-Dec-88 22:31 GMT Sys
7014 (4)
Subject: '7:30 morning 4'
Mail Id: IPM-7014-881203-202760001

 そちらがまだ連絡できるかどうかわかりませんが。

 通信はうまく届いています。
 お義父さんのことですが、いまこちらは日曜日の朝ですが、今日玲子さんのところへ行くはずなので、出かける前に連絡だけはとっておこうと思います。できるだけすぐ帰ってきてもらうことにします。
 それでは急いで送ります。  眞弓


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sun 4-Dec-88 6:59 GMT Sys
7014 (9)
Subject: '4:00pm 4'
Mail Id: IPM-7014-881204-062980001
Acknowledgment Sent

 おはようございます。
 今朝、お義父さんに電話しました。お義父さんがいうには、今回は10月分のはずだから、旅行とは関係ない、何かの間違いではないかというのです。10月は最低10日は通院しているはずだから、6日の根拠はどこにもない、というのです。
 とにかくSRさんに電話してみるそうです。通信をそのまま読み上げたのですが、それはこうだからといちいち説明してくれて、話がなかなか進みませんでした。うまくいってくれるといいのですが。
 こちらはいま中野がきてくれています。お義母さんも話を聞いてくれる相手がいると楽しいようです。
 これから買物に行ってきます。
 今日はどの辺までですか。スコットランドといっても広いのでよくわかりません。また夕方のメール楽しみにしています。
 眞弓


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sun 4-Dec-88 14:48 GMT Sys
7014 (10)
Subject: '12:00pm or 0:00am'
Mail Id: IPM-7014-881204-133270001
Acknowledgment Sent

 今日はエジンバラまで着いたでしょうか。かなり強行軍ではありませんか。
 いよいよスコットランドというわけですね。
 このイギリスの厳しい田舎というのは、行ってみなければとても想像できません。
 嵐が丘を思い浮かべるなど、東京生まれの田舎人間にはできない相談なのです。
 というようなわけで、今日はイングランドの田舎を想像しつつ、いっぱい機嫌でメールをしたためている次第です。
 それと宿泊代に関しては、1泊50ポンドをめどにしているので許可していただきたいとあったので、もちろんそれでいいと思っていました。旅先では何やかやとお金がかかるのはやはりしかたないと思います。
 ところで、20ポンドは安いですね。
 今日は中野(中野に住む家内の実家)が来てくれて、私も久しぶりにお酒を呑みました。ここのところ、一人のせいか、あまり呑みませんので、久しぶりです。お義母さんもずっとつきあって話していたので、疲れたかも知れません。こちらはみんな元気です。
 子供たちの寝息が聞こえますか。いま後ろで寝ているのです。幸せそうな寝顔を見ながら、私も休みます。では、おやすみ。
 眞弓


【エディンバラ】
mail 7014:unp063 su 7:10pm 4 Edinburgh

 いやあ、やっと着きました。
 遠い遠い、すごい強行軍、今日も250マイルを走りました。
 とにかく、ハワースからほんとの田舎道を走り、行けども行けども羊の放牧地、石積みで囲いをつくって、その高さが頭くらいかな、そのあいだが道になっているのです。
 だから、車はくねくねと曲がる石積みに挟まれた道をどこまでも進み続けるのです。
 すごい冬の荒涼感。
 そして雨が降り続けます。
 風は激しく、車のハンドルをとられそうになる。
 丘がうねうねと重なり、黒い雲が鈍重な息を吹き下ろします。
 僕は、まるで嵐が丘そのものの環境に、実に狂喜しておりました。
 高い丘の上をいくつも越え、木々が少ないせいか、水があちこちに出て、沼はあふれ、羊たちのいる放牧地の低みには水が溜まり、川もいっぱいの流れをあちこちに振りまきながら流れ、ところどころにある滝が水煙を高く立ち昇らせて、曇天の暗い午前中にいっそう荒々しさを加えます。
 日本には、絶対ない光景です。
 地図では距離がそんなにないようでも、この石垣の道は延々と続くのでした。僕は、途中で、目的地を変更しようと、よっぽど考えました。
 ようやく、A1という、日本でいう1級国道ですね、エディンバラに続く道に辿り着きました。
 驚くなかれ、今日も道を一つとして間違わなかったのです。
 これは、なんの加護でしょう。
 実に複雑なのですよ。
 そうして、こんどはエディンバラまでの120マイル。
 とにかく、3時頃からはどんどん暗くなります。
 面白いことに、山間部、ヨークシャーのことですが、この間にいたときは、はっきりいって僕の望んだ通りの雨でしたが、A1に出たときは太陽が出てきて、晴れてきたのです。
 もちろん、イギリスの冬特有の雨が晴れた空に浮かぶ雲から落ちてくるのですが、いやそのために、大きな虹が何度も何度も現れるのです。
 これも美しいこと。
 僕の目指す、スコットランドの方に虹がかかっている。
 そして、とうとうスコットランドに入りました。
 東側の暗い海、スコットランドの荒々しい崖、空はすさまじい夕焼けが広がっていました。
 そして、とうとう着いたのです。
 しかし、もう真っ暗。

 とにかくメールを出します。
 もう疲れきっています。
 ちょっと強行軍が過ぎるかな。
 このへんで少し休もうかな。
 ここのホテル、Old Waverley Hotel、ここはジャックがありました。しかし、Telocomの方の調子が悪く、300でやっています。
 飯も食わなくっちゃ。
 ところで、この町は大きいのです。
 1日くらいじゃどうにもならない規模です。
 しかし、僕はスコットランドの寂寥を見たいのだから、この町にとどまるというのは話が違うかな。
 しかし、ちょっと疲れたし、君はどう思うかな。
 もう1泊しようかな。
 えーとここは40ポンド。

 Princes Street,Edinburgh EH2 2BY
 tel.031-556 4648
 412号室

 ただ、ここは車が止められない。
 路上駐車です。

 しかし、ロンドンで買った高いガイドブックは、実に役に立っている。地図も詳しいしね。

 それから、ケンブリッジで、セーターやら買い、今日もヨークシャー・デイルの田舎道の小さな店で、本場物のヨークシャーのセーターやなんかを買いました。どれが誰のなんて決めていないので、君の方で適当にね。
 少したまったから、明日にでも送ります。
 それと、これまで2回送っているけど、そろそろ着くかな。
 葉書は、うちには出していません。
 荷物の中に入れてあります。

 子供たちに後で手紙を書くからね。
 とにかく、シャワーでも浴びて、食事をとらなくてはね。

 さすが、二日酔いと無理で、くたびれマンになったとーさん


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sun 4-Dec-88 22:44 GMT Sys
7014 (8)
Subject: '7:45 morning 5'
Mail Id: IPM-7014-881204-204600001
Acknowledgment Sent

 いまメールを読みました。
 やはり少し無理し過ぎの感じですよ。
 1日そこで体を休めることをおすすめします。
 こちらはこれから朝の支度です。窓に朝日が差し込んできました。
 今日もいい天気のようです。では取り急ぎお知らせを。

 きのうのバドミントンで体が痛いかあさんより


【エディンバラ】
mail 7014:unp063 su 11:30pm 4 Edinburgh

ひつじが、せなかに赤い色や青い色をぬられてね
なだらかなおかが、そうだね、公園くらいの広さで石をつんだきょうかいで分けられていてね
その中は、ひつじたちの食べる緑色の草がいっぱい
とーさんが車を飛ばしながら見ていたのは
ちょうど雨がはげしく降ったり
少しやんだりしていたときで
緑の草は水にぬれて
とても生き生きしているように見えたよ
ひつじたちは体がグレーの色をしていたけど
頭だけは黒かったな
その黒い頭の耳のところに
ぐるぐるっと
つのが
まるでさざえの貝のようにまいていたんだ
ぐるぐるっとさ

ひつじたちの体がグレーなのは
きっとセーターなんかつくるために
あのあたたかそうな毛を
かりとられたんだね
そして、青や赤にぬられているのは
なにかのしるしなんだな

とーさんが雨の中でしゃしんをとると
ひつじたちがみんなとーさんを見て
ふしぎそうな目をしていたよ

雨が降っていてね
石のつんださかいとさかいでできた道を
きっとなん百年も前からあった道なんだけど
冬のイギリスの北の地方、ヨークシャーというんだけどね
さむいさむい冬に
とーさんは
この冬のほんとにすぐ暗くなる空の下に住む
イギリスの人たちが
どんなにしてくらしてるのか
いろいろそうぞうしながら
車を飛ばしていたんだ

ひつじたちの食べる草を
野原いっぱいに育てている場所を
牧草地というんだけど
毎年毎年同じ場所に草を育てると
だんだん草が育たなくなる
それで、石をつみあげたきょうかいのとなりの野原に休養をとらせたりする
休ませると、土も新しい栄養をためることができるんだ
だから、土だけの赤い、黒い場所と
雨にぬれた緑の場所と
そのきょうかいを分ける白と茶のまじった石が重なったかべのつくる
けしきが
とてもおもしろいんだ

そして
その栄養を草がもらって
ひつじがその草を食べて
寒い寒い国の人たちが
あったかくくらせるような
とてもいい毛糸を
ひつじさんから
人間はもらうんだね

とーさんはそんなことを考えながら
いっしょうけんめい雨の中を
ひとりきりで車を走らせていたんだよ

じゃ、さとも、きょうこも、げんきでね
また手紙を書きますよ


***



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