ぶらり宿六ひとり旅 030



12月17日

【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sat 17-Dec-88 4:37 GMT Sys
7014 (9)
Subject: 1:40pm
Mail Id: IPM-7014-881217-041660001
Acknowledgment Sent

 先ほど、絵本とか、お城の写真とかの荷物が届きました。
 聡がとても喜んでいます。絵本、あとで読んでね、といわれましたが、英語なので調べながらになりそうですね。
 鏡子はまだ帰っていませんが、きっと喜ぶでしょうね。
 今日はこれからピープルにつれていきますので、早めにメールを送ります。そちらのメールを読めるのは、夜になりますね。
 では、仕事してますよ。
 眞弓


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sat 17-Dec-88 7:23 GMT Sys
7014 (8)
Subject: 'to papa 4:25pm'
Mail Id: IPM-7014-881217-066450001

 おはようございます。
 いまできあがった写真を見ましたよ。スコットランドの景色は素晴らしいですね。あとホテルの中の写真も見ました。
 机が高いといっていたのはあのことですね。
 想像していたよりはきれいでした。もうそろそろ出かける頃かと思いますので、またあとでね。
 今日はどこまでいきますか。じゃ、バーイ。


【パリ】
mail cannot send am3:00 17 Pari
(この手紙は東京に送っていない)

 さて、これも出さないでおく手紙だ。

 今日はピガール駅から地下鉄でBacまで、つまりサンジェルマン・デ・プレの入口まで行った。
 ただどういうわけか、金を払う時に、駅員に要らないとしつこくいわれて、結局ただで乗った。
 よく分からないが、時間帯のせいで貧乏人をただにするとか、ストライキかなんかのせいか、とにかく説明できる人が側にいないので、推測。おそらく、ストライキとかの関係だ。
 地下鉄の入口がしまっているところもあるからね。でも、時間帯でとか、観光客へのサービスとか、分からない。
 サンジェルマン・デ・プレを東に歩き、サルトルとボーボワールのよく行ったというマーゴというカフェでカフェ・オレとクロワッサンで朝食。ホテルの食事はとるだけ胃に対してもったいない気がする。
 はっきりいって、外で、フランスパンやクレープなどを食べて、ある感覚に浸る方が絶対いいわけだ。
 とにかく、それからモンパルナスの墓地に行くことにした。ここには、サルトルとボードレールの墓がある。もちろん他にもたくさんの人が埋められているのだけど、霧雨の中、僕はこの二人の墓を探した。
 サルトルの墓は新しくて、すぐ分かった。ボードレールの墓もきれいだったけど、しばらく探した。
 古いものだと思っていたのと、ガイドブックを読み違えていたのとで、なかなか見つけられず、途中で諦めかけていた。
 しかし、白い十字架の白い墓は見つけることができ、僕はポエジーの永遠というものを願い、彼の墓の前にしばらく佇んでいた。

 それから、サン・ジャックというのだが、古い通りをたどり、13世紀に造られたという裏町を歩き回った。
 ソルボンヌ、ローマ時代の浴場跡、そしてカルティエ・ラタン。
 僕はどうしてもあの5月革命のことを考えざるを得なかった。
 確かに、この場所で市街戦をイメージするのは、僕の経験からも容易だった。大学構内の角から市街地の方を向くと、実にありありと、当時の学生たちの闘いざまが思い浮かぶのだった。
 それから、裏町のさまざまの店を見て歩くわけだが、本当は僕にはこうしたことは困ったことなのだ。とくに、何かを買うという現実的な行為が加わると、もうどうしようもない。
 僕は、見て楽しむくらいのことはできるのだが、買うという目的を持つと、今度はそれに縛られてしまう。
 おもちゃ、ガラス製品、銀製品、絵本、人形、骨董品、頼まれたマロン・グラッセ、絵、写真、ファッション、とにかくそうしたものにどうしても注意がいく。
 ということは、あらゆるウィンドウ・ショッピングをするということだ。
 それも、見落とすといけないから、反対側の道路も歩く。
 一事が万事こうなのだから、僕の苦労も大変なものだ。
 一種、完全主義のきらいがあるのだろう。

 で、このあたりじゃ、高いこともあるけど、なかなかすごい物などあるし、後は免税の件、日本に送ってくれるかどうか、フランス語による交渉は僕の能力外、そんな問題の結果、オペラ座通りの免税店、デパートに移ることになった。
 セーヌを渡り、いやがっていた免税店回りです。
 ガイドブックによると、頼まれていたマロン・グラッセの店がここにあるというのも、ここに来る原因です。
 しかし、この店は日本に送ってくれないというし、免税店ではない。一度梱包したのですが、キャンセル。
 それで、僕は日本のデパートの方が簡単かと思ったら、松屋も高島屋も出張店舗なのです。
 三越は違うらしいけど。
 で、本日は諦め。空港でまとめて買おうか、三越に行こうか。
 それで、裏通りを通りながら、ホテルに帰りました。
 着いたのが、7:00過ぎていたかな。

 それから、疲れてうとうとしていたのだけど、頑張って、モンマルトルの墓地の傍の道から丘を登って、丘の裏側にあるau Lapin Agileというシャンソン酒場に行くことにしました。
 ここは、当時の芸術家の溜まり場。ピカソ、ジャコメッティ、アポリネール、その他さまざまの連中が夜毎集っていたということです。
 10:00過ぎに行って、入口のドアが閉まっていたので、オープンの9:00に入らないと駄目なのかなと諦めかけていると、昼間訪れたボードレールの助けでもあったのでしょうか、扉は開かれ、僕は招かれたわけです。
 そして、実にすばらしいシャンソンを聞きました。
 僕も歌わされたりしましたよ。
 といっても、喋れないから、ハミングだけです。なんとか、向こうの注文の通りやったので、拍手と乾杯がもらえました。
 腹を決めたので、みっともなくうわずったりもしなかった。ははは。
 そのおかげで、ポスターを帰りに特別にギフトされました。
 彼らが喜んだのは、日本人のたいがいが恥ずかしがって拒むからでしょうね。
 しかし、ここでも、日本人の関西からの女の子のグループかな、歌手の歌を無視してべちゃべちゃ喋っているので、歌い手からどうも本気で顰蹙をかっていたみたいです。
 彼女たち、それに気づかない。
 ここの歌い手たちは、アーティストという自覚が強く、そのへんのキャバレーと一緒にされることに腹を立てるようです。
 実際、本当に泣きたくなるようなシャンソンを聞きました。
 明日も行こうかな。
 モンマルトルの丘の裏側にある古い酒場で、40人くらいでいっぱいになるシャンソニエ、しかし中にある絵とスカルプチャーはすごい。おそらく、全部本物でしょう。僕はジャコメッティだと思われるキリストの等身大くらいの彫刻によりかかりながらシャンソンを聞いていたのです。

 もう、他の日本人といるのはいやですね。
 どうして、肝心の感動するときに感動できないのか。こんな馬鹿なことはない。
 僕は、フランス語なんて分からなくても、シャンソンのさまざまの形に酔いました。涙が出そうな歌もあった。


【パリ】
mail 7014:unp063 su 10:00 am 17 Paris

 昨日の夜はau Lapin Agileというところに行きました。
 シャンソン酒場で、ピカソやドガなど、当時の芸術家の溜まり場だったところです。
 この話は長くなるので、別に昨日書きました。送れませんので。
 ただ、とてもいい歌を聞き、また行くかもね。

 これから顔を洗って、やはり三越にでも行こうか。
 ちっぽけなデパートとはいえ、ここはなんとか3階あるらしく、チョコレートも買えるらしい。

 それと、写真も撮っていないし、フランスそのものの記念というようなものも買っていない。
 ここは、おまけのつもりでいたのでね。

 高いレストランも行ってないな。どうも値段の高さに唖然としてしまうからです。


【東京】
To: LBH050 (10084:LBH050)
From: UNP063 Delivered: Sat 17-Dec-88 14:40 GMT Sys
7014 (14)
Subject: 11:40pm
Mail Id: IPM-7014-881217-132040001

 いまテレビでフランスの食事についてのクイズをやっていて、子供たちが見ています。トゥールダルジャンの鴨料理や、モンサンミッシェル修道院のオムレツなどがでてきました。このオムレツはとてもおいしそうで、まさにスフレだそうです。食べてみたいなー。
 パリから360キロあるそうですから、かなり遠いですね。
 トゥールダルジャンなんて高そうですが、いいんじゃないでしょうか。いま、トリュフを取る豚が登場しました。ご苦労さまですね。
 もう旅も終わりですから、少し贅沢したらどうかな。
 ところで、こちら時間の18日午前0時まででトラベルボックスが終わります。ですから、そちらの18日午後4時までというわけです。18日は早めに一度帰ってきてもらいたいのですが、いかがでしょう。そちらの4時までに最後のメールを交換したいと思います。
 どうかよろしく。


【パリ】
mail ar 7014:unp063 su 6:10pm 17 Paris

 もしかして、このメールは届かないのではないか。
 そちらの18日午前零時とは、こちらの17日午後4時で、もう過ぎてしまった。このメールが届いていたら、朝にでもメールを入れてください。
 夜中の1:00頃にはメールを読んでみます。
 レストランは、ガイドブックにあるような大きなところは土曜、日曜はやっていなかったり、予約がとれません。あちこち電話を入れてみたのですけどね。
 せっかくのお許しだったのに、ね。

 連絡がとれなかったら、どのみち、一度コレクトコールをいれます。
 君のいる、朝8:00前か、夜10:00過ぎ、もちろんそちらの時間です。


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