緑字斎一家、アメリカ大陸横断記 02



 7月22日

 電話の形態がどうなっているか分からないので、噂に聞いている1200ボーのアコースティックカプラーを手にいれたいものと考えていたが、本日は午前中しか時間がない。
 ハリウッドBlv.とハイランドBlv.のあたりにある電器屋に行ってみたが、土曜で休み。子供たちはチャイニーズ・シアターあたりをワイフとぶらぶら。まあ、せっかくハリウッドにきたから、というわけ。そういえば、小生も10年前に、ここに滞在したことがあったことを思いだした。しかし、ここに長くいるわけにはいかない。今回の目標は、大陸横断ドライブなのだ。
 じつは、レンタカーを借り出しに、センチュリー・シティに行かなければならないのだった。
 しかし、またトラブル。センチュリー・ホテルにあるハーツの営業所に行くと、女性の係員が、車はないという。受け渡しが別の営業所に変更になったという。冗談じゃない、荷物もあるのに。そればかりか、時間がかかるという。なにいってるんだ、子供たちには今日は車が手に入るから、ニューポートあたりのモーテルに早く入って、海かプールで遊ぼうとなだめすかして、昨日、今日を引き回してきたのだ。
 この中年の係員、ミズ・バーバラは陽気なアメリカンで、あちこちに電話をしながら歌は唄うし、踊るわで、見ているだけで面白い。彼女、我々がニューヨークまで行くという話を聞くと、目をぱちくり、クレイジー、素晴らしい家族だとほめちぎり、それじゃあ、念入りにチェックした車を用意させるわ、とばかり、あちこちに電話。
 しかし、そこでとんでもないことが発覚した。つまり、ニューヨークでドロッピングする車は用意されていないということ。さて、こりゃこりゃ。
 しかし、バーバラ女史、ここで大奮闘、このクレイジーなジャパニーズファミリーに大いに肩を入れ、ブルース・スプリングスティーンまでご登場、コンピューターの端末と二本の受話器を左肩、右肩と一個の顎で抱え込み、唄ったり、踊ったり、怒鳴ったり、哀願したり、すったもんだのあげく、エアポートにたまたま来ていたニュージャージーの車を発見、それをレッカーで引っ張って来い、と相成ったわけだ。ごくろうさま。
 ここまで1時間半、そのかわり車はクラス上のフォード・トーラス4 Door、料金は当然、契約時のミッドクラス料金、そのうえ無駄にした時間分安くしてくれる。これも、当然。
 しかし、バーバラ嬢の奮闘ぶりはこれは当然ではない。彼女も疲労困憊するほどに大活躍の熱意は、これは我々も大感動。ありがとう、バーバラ。
 さらに1時間後、レッカーで車が運ばれてきた。
 バーバラ曰く、あなたたちの忍耐ぶりも信じられないわ、だってさ。
 この間、小生は前日のコンピューターとの苦戦、英文のメールの作成で、朝までほとんど睡眠を取らず、もちろん飛行機の中でも映画を見ていたので寝ていない。ほんとにクレイジー。それで、ぼーっとした頭では途中で会話をワイフに頼るようになり、ワイフも後で言ったれけど、終わりごろは私も疲れて、バーバラのいうことがよく分からなくなってきたわ。もっとも疲れたバーバラの会話もだんだん早口になってきたこともある。
 しかし、ワイフにもここは感謝でありました。

 ニューポートへ、やはり広い国、道に迷ったりしながら着いたのは6時。モーテルもAAAマーク(アメリカ自動車連盟推薦、設備等の信頼のおけるモーテル、ロッジにつけられる)のものは満室。それで、プールの件は親父の威力で脅しをかけて、子供たちに泣き寝入りさせ、サーファー用のチープでダーティなモーテルを見つけた。周りの人も、オフィスのなにやら怪しげな若いのも奇妙な目で見ながら、それでもしようがないので、この、ドアを一発で蹴破られそうな部屋を借りることにした。
 子供連れ、日本人、それにしてはらしくない恰好、糞度胸、どれが奇妙だったのかは分からない。
 しかし、この辺が治安がいいことは聞いていたけれど、まさか、このぼろモーテル、エアコンもなし、窓だって、木枠の壊れそうなもの、こんなところに泊まるとは自分でも考えていなかったのだった。子供連れだからね。
 だから、その分、緊張して寝たというわけだ。なにかあったら、そのつもりで、というわけだ。
 それが子供たちにも微妙に伝わったのか、それでなくても寝不足やら、環境の変化などで辛いところなのに、よけい彼らも緊張してしまっている。これはかわいそうだった。
 しかし、これも旅、成長の旅なのだ。


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