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うらうらの声
常欲する火の螺態
条痕うすく
蟲ばみのひとり語の
酷いあつさ 破れ天に
酸味の風崩をへばれて
粒らな光の軌跡に
微かな日輪の翔び音
ぼくは 翳のもつれる白昼
暗赤の〈声〉に 蒼褪めていく
すでに 乱れ空のうらうら
豊満な裸体の横たえ
生ま温い暖風の吹き通る
…………………………
花裂ける
薄透明の軟質の空
青い地面のぬけて映る
異物の
導入部
《おれは
声あげて
白糸を無数に
吐きつづける 一匹》
空空の絡めの生理 あの
黄光の気圏に
うわずった半音階の
こもり声
ほそい路地割れの
酸性の臭みが 胃の
透き通る薄襞を蔽い
路地裏の
点滅の花畑に
滞る 尖塔
剥ぎ空の ぼくの唇
紫変の語感が破れてゆく
爪を立てて むしろ
陽の稜線の
底知れぬ 顫え
ぽーん と
白塗りの下駄の歯を
〈ぼくは〉
風の裂目に
蹴りあげた
〈遊泳禁止区域だよ そりゃあ〉
〈旗が泣くから ぼくの勝手〉
暮日は幾分か昇りおりしながら
幾度も欠けつづける
〈薄めの日ざしだね〉
〈そのまに 透明の血の管が
ちくちく 彩るさ〉
破れ旗の向こうに
翔んでるのは あの
暗赤の〈声〉の、うら翔び
脳の芯は
戦慄の奇妙なくねりに
悶々と伏している
破れ天から降る
脂じみた指紋の数々
一枚一枚めくりながら
占おうか ぼくの語の裔
午後零時
豚の胃膜が延びる それから
刻を打つのと 同時に
一瞬一秒の隙もなく
ひと垂れの 雨線
微分の虹のほんの輝き
零のうら声は その時の
背に 貼りついて
その時を待っても
見えはしなかった――
(c)1974,
Akira Kamita