生魂荒らし
鐘楼に伴連れ八重の蔭潜み滴る炎
駒型に亡霊の叫喚を繋げ淵仰ぎ眼の斑
殉死者の広大な野と灰まみれの墓地
炎垂れる月宵草木の河
炎垂れる灰紅い首
炎断つ意志の
片
擾乱は
睡眠
の夢
炎は死の前奏をふりあてられ
古寺に棲む青蛙のぬめり
桜花散乱桐花砕け血潮にぬめる
ぬめる
ぬめる
受刑囚の告白は山吹きに放ち
死因は紺碧の砂に被われ
弔歌は永遠に滅びている
眼は透視図の何処にも設けられ
ずか細い戦慄はダッシュで印さ
れている鼻汁は胃壁を潤し冷め
た聴力は褪色した街を刺し抜く
白い卒塔婆を河に流し架橋は苦楽
白い卒塔婆を赤い百合で包囲し遺骨を舐め
白い
頭蓋骨
を伴連れる墓曝き
退職した坊主と官吏を殺害する霊群
隣の
生魂
を殺害する生魂
生魂と生魂との生魂荒らし
七日目の半月を合図に
七日目の半月を合図に
生き魂荒らし!
蛸の群を墓所に呼び
蛸妨主の読経に混れ
蛸入道の墓暴き
嵐は左腕から右腕へ吹きぬき脳葉
はとろけ地下系図の潰滅を招び爪
が赤い髪にへばりついている
納骨堂に包囲された聖地は春画を埋め
総合納骨所のビルディングは死の街角
骨は鮮血がへばりつき炎は沼に拡がる
燈明は蜘蛛隠れる欲情にたぎり
生魂との交合を照らす
幾百の如来像が雨に破れた岩屋とテラスで
招き猫をまねる
ぬめる日々に柳の河原を舐める
ぬめる生魂荒らしは
地獄へ没ちない
地獄へ没ちない
茫洋とした地軸を支えているのは
地獄へ没ちない生魂荒らし
御詠歌のうねりは街の北へとねり
歩き白装束の祭は地形図を被い天
はさみだれ雨足遠くさみだれる破
乱さみだれる三途の河原渡し
くもり雲の
傀儡
は屈み込んだ微笑流し
架橋は擾乱を覚睡し意志は剥かれる
高地の社寺は迷妄の菊花
早咲きの花弁は死の卵
待ちぼうけで街儲ける僧侶を荒らし
黄色い卵の浮游を凝視る低気圧の眼
埋められていく湖は生仏の庵ではない
墓掘り人夫の夜流し歌をまねるな
群生の生魂荒らしはハレルヤを唱え
街から海まで剃り落とし
滴る地獄花を生け落とし
桃源郷は示談に応じた後の話
血は血で
死は死で そして
おれの生魂はおまえの生魂で
代置されるのだ
荒らし野の荒れ育つづく荒らし世に
生魂荒らしのぬめり聲
(初出 法政大学新聞第682号 昭和47年4月15日付「第18回文芸コンクール」松永伍一選 佳作一 1972)