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春の街だよ
グラニュの分水嶺
蒼天の吹きぬく縞の
龍吐水
網膜のひと剥げに
浮きつめる山岨の
乾きの香
淘る
淘る 発狂の紐
はりついた 肉桂樹の町が
鈴なりの大気を 潜め声の
粉末化する 言葉の 夜
甲高く
甲高く 撃ちおとす
譫妄症状
燦然の薄氷
垂木の割れ芯に
アセチレンの絹を脹らめ
夜道の孔ゆきに
水仙花のほそい舌双つ
幻惑の
幻惑の 低く増幅する
頭脳の吸い音
飽枯れよ
飽枯れよ ドラム・ソロの
襞移し やにわ
眼寄りの風化圧
不倒翁のような銅線を
弛め 陽の滴り 水中実験
おお 春の街だよ
楊梅
の または 喘息の
探検家の 単調な 島ぐらしよ
起きあがりの浮屠 残酷な処刑
ひとしばりの彩姿 痛み映え
虹の鵬程をかけて
炎
の騒擾雲の呼び
墓石化
宇宙底
蟲こぼし
残り夢
下肢をガラス嵌め
首吊りの欅
街道沿いの水柱
死の不安な寝顔を
ビーム旋律の激越な波頭で刈りとってゆくと
そこは熱狂のガス焔の赤道地帯であるゆえに
緋の衣裳で翔破する光圏の反重力盤をよびこ
んで綿津見の蒸発地図を叩きあげるのか!
おお 春の街だよ 火の死亡時 または き
まぐれな軌道衛星の解毒剤よ
首吊りのブランコの 眼 毛 を れ !
風そそる長距離電話 の 闇 巡 よ
高速道路を海漬ける 真 体 眠
手のこんだアリバイ 性 か
星の白光を証明にて 死
菫色の霧笛を垂絹る
火の仮性水死か昼か
または手折れ薔薇か 白 の 音 て
落雷の記憶亡失から 光 子 に
呟きの眼底に這える 純 憎
水の仮性焼死か括り 生
粉末の銀河・枯れ肌の王
被写体の崩れ声 おお
電車の 春の街だよ おお!
厳格な死亡通知 おお
鳩の黝んだ日蝕・突き夢
黄土色の塔の時間割り
なぜ広場は波際の痛点に
沈められたまま帰らぬのか
リトマス紙の苦い反照
なぜ山頂の濡れた展望台は
河山近くから寄せる空腹を嗅ぐのか
転げる
転げる 凝結の羅針盤を
映す幻の童顔
春だよ
春だよ アメジストの犬啼岬
蒼天の沐浴の湖
屹立の魚
泡 砂あらし
シナモンの喉ぼとけ
縞ばしら 日の埋め土 指繰り
磁気あらし
逆流する滑石の
畑に潤う旋極の破裂音
舐るように胡瓜を摘んでゆくと
溶岩の噴出する海底住居を
焦し出して海藻の赤い舌で
言葉の球体を片目に貼りつけ
白い尖光
宇宙の石炭袋の支える
星の囚人列車の跡なく
重い矮星の 撞きばめられる
恐怖の戦慄を からめとる
おお 春の街だよ 夜の涯
閉じ眼を剥いで
下垂体まで貫いて
再び死体のふりして
不可知論を唱えてみる
そのうちに朝の乾いた鐘が落ち
虹が融け出してきては
龍吐水の皮膜でできた壁の
厚い透視術を塗りつける
分水嶺までの数キロの森歩きに
孔のあく足裏を投げだして
蛇のような通路を流して
低くシュッシュッとぬける
視線の繊維に刈りつめてゆく
おお 春の街だよ 夢捨ての
おお
おお 春のつめたい街角の
風さえつめたく発狂する
春の街だよ 春はだし または
星はだし 眼の眩む
頭脳!
(c)1974,
Akira Kamita