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歩いているときに、なにげなく後ろを振り向いたことがおありでしょうか。そう、いま感じているのはそのことなのです。つまり、影のような、なにやら得体の知れないものにつきまとわれているような気がして振り返ると、暗黒の底の方から、冷たいまなざしが、肉体はもとより、心の深奥まで貫いてくるような。危惧とか恐れなどとは違って、周囲のあらゆるものが憎悪している、いや、自分の存在自体が己れを憎んでいるというような、死というちっぽけな現象よりも大きな苦悩。そのままずっと歩いていくと、自分の跫音が、いわば十三階段への招きに思われ、それで後ろを見てしまったのです。自分でも何もないように思いましたが、そこにはもう、ありとある憎しみが大きな渦をなして、こちらを睨んでいるのです。けれども死を与えようなどとはせず、こちらにしても死を選択する自由すら奪われているような気がして、彼らはそのような存在を徹底的に嘲笑し、恥辱にまみれさすのです。気にすることはないよ、ただの分裂傾向だといわれるかもしれませんが、断じてそんななまやさしいものではありません。
ところで、崖から突き落とされた夢をご覧になったことはおありでしょうか。