緑字生ズ 046 (ずいぶん深い思考に……)

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ずいぶん深い思考に浸っていたときに、急に目の前がぼんやりして視点が定まらなくなった。椅子から立ち上がると、気分を落ち着かせるためにラム酒を啜った。空間が歪むように、思考の中に何か空洞でもできたのだろうか。アルコールが徐々に全身を廻り、指先の神経まで麻痺が達した。精神と肉体がとても楽になっていた。自分自身がどこか別の次元を移動しているかのように爽快だった。しかし、本当はとんでもない悲惨さの中にいた。振り返ると、漆塗りの置時計の黒い振子が斜めに傾いだまま、こそとも動かないのである。

時計の文字盤を蔽うガラスに、少年は異様なものを見た。そこにあるものは、目の両端が吊り上がり、顎が醜く歪み、黒々とした肌は錆びついていた。立ったままの姿勢を永遠に保たせるため、全身の骨格が硬い鋼鉄に変質しているに違いなかった。少年の思考は鈍い軋り音をあげるばかりで、声を出すことも、身ぶりで何かを示すこともできない。ところで少年は、病室の中で狂人は何を考えるのだろうとつねづね考えていた。そう思いながら病人を訪ね歩くのが少年の日課だった。その日も、その日課を果たそうとしていた。けれども、このとき、少年はつねとは違った少年になっていた。狂った人が何を考えているのか知りたくてたまらない。少年は約束の時間を気にした。鍵は誰も開けてくれない。時計は永遠に停まっている。

歴史が破壊されつくすならば
なんという痛快
時を告げる鳥を捜すには
永遠の道草を喰わねばならぬとは
ああ!
頭脳崩壊
あっかんべえ