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闇の凍りつく動悸に冒され
離婚して、若い女と暮した男
音楽の器械をつくり、子供ができ
すぐに死んだという話が伝わり
もう出会うこともない
朽葉の音は灰色
風さえ冷たく発狂し
キバシやヤマシギの白い影があるばかりさ
空間がねじれているから、そう思う
意味のないことを喋って訣れ
音のない世界のことを考えていた
男の店への通路が曲りくねっている
地下室で原子が死をぶつける
音楽は群がり、塊となり
けものの呻きのように
永遠の夜がつづく
………………
闘いのために祈りを――
男の死の朝に
そのことがふたたび忘れ去られる
昼食に出ています
今日が最後の日です
男は、明るい光のあるうちに
死んでしまったであろう