旧作:1980: 暗い風

暗い風 「定稿」
  ――――アルゼンチン・タンゴの曲詞


窓を開ければ 深い夜にふれる
古き水のゆらめき 暗い河
ひとは眠りゆく ふり返りもせずに
哀しき日々 恋のみぎり 想い出の
狂おしき命を 燃やしきったこの部屋
情熱にいだかれ 闇もくずおれ
今宵ひとりで 寒い風を愛す
涙こらえ 夜の気配 たわむれの


くちびるにふれる 凍りついたガラス
指の先にこぼれ落ちる 熱き涙
ひとみの彼方に 青く澄んだ希望
心みちて尽した日々 そればかり
絹のシャツは裏切り 気の遠くなる夜
破り捨てて叫んだ さよならと
眠りについても むしばまれた夢に
なにもかもとどこおる 風さえも


風を頼りに 夜を流れていた
光ふるえ わたしの影 失われ
夢を捨てた あの人はいずこ
時は過ぎて ひとり侘し 歳ふりて
鏡とって映した わたしの顔 この部屋
髪は白く やせこけ Rosa pálida
想いいだしえぬ あの人の名前
夜はすでに明けても 空は暗い

ずっと気になっていた1980年ころに書いたものを一部訂正した。
[作成時期] 1980