[資料] 戒厳令下の北京を訪ねて【上海篇】[04](直江屋緑字斎)

戒厳令下の北京を訪ねて【上海篇】[04]

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 サマータイムを採用しているせいもあって、東経121度のこの都市は夕方の5時を過ぎたというのに3時くらいの明るさで、タラップを降りるとむっとする熱気が私を包み込み、その熱さの中には何か懐かしい匂いが混じっているような気がした(成田発13:50、前回の時刻は間違い。到着はほぼ3時間後の17:00)。
 上海虹橋機場(Shanghai Hongqiao Jichang)は市の中心から西へ17キロほどのところにある。上空から見た感じも、何やら寂しい気がしたが、滑走路も、空港建物の中もがらんとしていて、とにかく外国人の姿が一つもない。
 入国審査も税関も、ほとんどフリーパスのような状態で、あっという間に済んだ。おそらく、中国が外国人旅行者に寛大であることを対外的にアピールするための措置なのだろう。それは治安が回復されていることを無理に誇示しているということなのだろう。

 両替所がクローズしていたので、外貨兌換券(ワイホイ)を用意できないこともあり、タクシーでとにかく適当なホテルに行くことにした。
 客待ちしているタクシーはとんでもない中古車で、客席のシートだって中身があちこちからはみ出しているというような代物である。しかし、気の弱そうな太った運転手はなかなかの腕前で、人も自転車もかすめるようにして、夏の光を葉叢に燦かせたプラタナスの並木の続く道をとんでもないスピードで走るのだった。
 ひと昔前に、神風タクシーというのがどこかにあったなあと、呟いてみた。

 市内に入ると、仕事帰りの時間もあって、いきなり自転車の数が増え、屋台やそれに群がる人々の数が増え、道路に車が走るなど知っているのか知らぬのか、どんどん人があふれてくるのだった。パリなどでも、人々はおかまいなしに車の前に飛び出してくるが、ここの規模たるや、そんな話の比ではない。自転車が、労働者が、女性が、子供が、学生が、老人が、あちこちの路地から湧き出るようにして、道路という道路にあふれているのだった。
 淮海中路と瑞金一路の交差したあたりにある錦江飯店(Jin Jiang Hotel)は上海を代表するなホテルであるが、運転手は同じ敷地に新築された新錦江(Jin Jiang Tower)という超デラックスなホテルに埃だらけの車を着けた。