[資料] 天安門事件: 内側から見た恐怖政治[02] (佐丸寛人)

 三、始まったシロ狩り
 しかし、私の期待に反して、A市もA市の属するD省もあっさり中央の鎮圧支持を表明した。それだけでなく、中央と全く同じやり方で矛先を市民・省民に向けてきた。
 A市に於けるここ2箇月来の運動は完全に否定され、特に、広場の放送局と路上のバリケードが激しく非難された。そして、「もし、これらの不法行為を今すぐやめなければ、どんな結果になろうと、それは全く君たちの責任である」と脅迫してきた。
 6月4日から1週間もたたないうちに、地元当局による実力行使が始まった。この頃はもう完全に保守派・軍部が全国を制圧していたし、人々もそれを知っていたので、武装警察が広場に行くと、学生たちもあまり抵抗せず、「6月4日事件」の再現を恐れて逃げ出した。後で、A市やD省の高官は「我が市では一人も死者が出なかった」と自慢していたが、全く笑わせる。広場の放送局、「聖域」、張り紙、写真、花輪は一つ残らず撤去され、道路も「正常な秩序を取り戻し」た。
 こうして、保守的と言われたこのA市に咲いた自由化の花は、武力という植木ばさみでことごとく切り落とされ、土中に埋められた。
 しかし、人民に対する圧迫は、弱まるどころかますます強まっていく。
 先ず、報道統制が始まった。5月20日の戒厳令布告あたりから、マスコミは次第に保守派に制圧されていくのだが、特に6月4日以降は完全に「反革命暴乱平定」一色となり、私が現在取っている三つの中央紙、一つの地方紙は、内容に何の違いもなくなった。例えば、6月4日『解放軍報』の「断固として中央の決定を擁護し、断固として反革命暴乱を鎮圧する」等は4紙とも同時に掲載するわけである。6月8日「反革命暴乱の真相を暴く」、12日「人心を惑わす謡言者肖斌、大連で逮捕」、13日の方励之夫妻逮捕令、14日、15日の学生・労働者運動主要人物逮捕令等も同様である。違いと言えば、地元紙はさらにD省での運動の「頭目」の指名手配を載せていることだけであろう。
 テレビ・ラジオもまた当局の宣伝・脅迫を繰り返している。特にテレビは映像があるだけに、印象は強烈である。スイッチを入れると、いつも「反革命暴徒」非難、「ブルジョア自由思想」批判、「指導者」の「重要講話」、運動の「頭目」の逮捕・裁判の場面等をやっている。6月10日には前述した肖斌氏が街頭で「あれは『反革命暴乱平定』なんかじゃない、虐殺だ」と言っている画面が映り、その下に「この男は流言飛語で人心を惑わし、暴徒を扇動しています」という字幕が出、最後に「この男を見かけたら当局に通報するように」とアナウンサーが読みあげた。これで人々は当局と違うことを口で言うだけでも逮捕の対象となることを知った。