[資料] 天安門事件: 内側から見た恐怖政治[02] (佐丸寛人)

 また、中国の秘密警察は実に優秀で、民衆運動の様子は、デモ隊の奥深くまで入り込んで隠しビデオで全部撮ってあり、それを「反革命」の証拠として放映する。あの時は学生のほぼ100%、市民の過半数が参加したから、みんな大小に拘わらず「身に覚え」があるわけで、脅迫の効果は大きい。私も一回はカメラに入っているだろう。
 放送の時間もやたらに長く、回数も多い。A市では、A市・D省・中央の二つ、計四つのテレビが映るが、チャンネルを回すといつも必ずどこかの局で、ひどい時には4局同時に、これらの物を放映している。ドラマや歌番組を見終わって「やあ、よかったよかった」などとくつろいでいるのもつかの間で、すぐ政府公告が画面に出てくる。だから、100%愉快になれる時がない。
 思想統制も始まった。大陸には強制的な「学習」会という制度があって、人々は1週間に数時間、必ず党中央から降りてきた文献を「学習」しなければならないのだが、これが6月4日以降は馬鹿みたいに多くなった。ひどい時は一日中、「鄧小平主席の精神」や「李鵬総理の演説」を「学んで」いる。私の職場の中国人職員もそうだが、この間、通常の業務は停止するわけである。でも、当局は生産が下がり経済が遅れることなど少しも恐れていない。ただひたすら、国民が社会主義思想から離れることを恐れている。
 私の身の回りでは、他には、B大のある先生の息子さんが逮捕された。しかも、私はこの先生も奥さんも知っている。二人とも善良な知識人夫婦である。捕まった彼の指名手配写真を見たが、やはり温厚そうな顔をしており、「悪人」のイメージとは程遠い。ただ共産党中央の人間より頭がよかったに過ぎないのではないか。でも今はそれが許されない。B大の学生たちは、彼は銃殺されるかもしれないといって怖がっている。
 それから、6月15日には、逮捕に行くらしい武装警察の隊列を見た。鉄兜をかぶり銃を背負った者がサイドカーに2人ずつ乗り、それが15台も続いて、最後尾には護送車が付く。あんなのが、道の真ん中を我が物顔で通って行くのだから、市民への威圧感は大きい。しかもその時彼らは私の職場の方に向かっていたから本当に肝を冷やした(結果的には通り過ぎた)。まさか私の部屋が捜査されることはないだろうが、もし「御協力を願う」などと言って警察が入ってきたら、運動中に学生からもらった文書や中国政府を批判した日本の新聞等が「証拠物件」にされる恐れは充分ある。