透明な卵
球体の中に世界が視える
老いた書誌学者の説によれば
つがいの巨人族の
幾何級数的な交接
青みがかった眼の彼方
降る星も消えずに
壁の中に埋る耳
通廊に貼られた跫音
樹齢一千年の黒檀製テーブル
タップダンスを踊る
女の細いかかとが
ガラスの部屋に喰い入る
戦争の夢を語る少女
やわらかな脣の奥
硬質の乳
なによりも尖った臀
体内における血の嵐
殺人者の盥
烟る海へと漕ぎ出してゆく
龍の刺青を誇る腕
数億の日々が
数億の波の棘を渡ってゆく
いま
ゆらめく卵が
夜の神秘を映す
白髪の友の声音ひくく
ひらたく伸びた掌に
滴となって
燃え落ちる