飛翔する肉体(追悼)――演出家・只石善士に

飛翔する肉体(追悼)
  ――友であり、先輩である只石善士兄に捧ぐ

アンダーグラウンドとは肉体主義の時代そのものであった。
いいかえると、肉体主義の時代はアンダーグラウンドである。
なぜなら、あらゆる抑圧の底部に粉々に砕かれた肉体の粒が、おしつぶされたそれぞれの思いの破片が、牙を剥いて肉体のモナドとして起ち上がろうとしていたからである。
1970年前後、国家と権力、管理と抑圧、システムの強権がわれわれを暗黒の深層に閉じ込めようとしていた。わたしたちは地方の受験校を飛び出して、この首都の地下でそれぞれの戦いを始めていた。

絶対的な自由を求めて、あらゆる抑圧と闘う精神をもってシュールレアリストの謂であるとするならば――。
アングラ演劇の勇士・只石善士はそのことによってシュールレアリストである。
抑圧に対するに断乎たる暴力を忘れぬことで、只石善士はシュールレアリストである。
肉体主義をともに生き抜いたことで、只石善士はシュールレアリストである。
暴飲に暴飲を重ねて肉体の枠組みを飛び出したことでも、断乎たるシュールレアリストである。

晩年のある夜、ふたりで酔いつぶれたとき、突然、わたしの初期詩集の次の一節に触れ、「これだ!」と思ったと言ってくれた。

肉体は、訓練に重ねて、素粒子ほどに収縮し地球ほどに膨張しなければならない。そのためには、まず、肉体だけで空を翔ぶこと。

物理的に不可能だというなら、物理性こそ肉体の非現実性であるから、現実的に翔ばにゃならない。

そしてその後に、ある区切りがついたら日本中を車で放浪しながら死ぬまで暮らしていきたい、ともらしていたのが今またよみがえる。

けれども、人生は、思うだけですでに叶っていることがあるものだ。
只石善士は、徹底してアングラであることによって、自由を生きたに決まっている!

先の詩の最終節を掲げて、一つ上の愛すべき童顔の先輩に捧げたい。その飛翔の見事さに。

水を蹴って、
夜間飛行の
魔の呪文の半濁音が。ぱっぱっぱっ。


2011.10.3 只石善士兄没す
2011.10.4 追悼す

帯広の真宗大谷派帯広別院(北海道帯広市東3条南7-7 電話 0155-25-1122)に永代供養

紙田、故只石氏、S女史、娘, 2002.6.9

[作成時期] 2011/10/04