寄稿: 金石 稔 「【skr??l】(その1)」

【skr??l】(その1) 金石 稔

桃の実が枝になっている(走っている)遠景
〈つがいのけものの痕跡〉ときまぐれに名付けた空
落雷の一個が音もなく埋もれている
群青に点された夜の香水の一滴
音楽の奏でられる気配のとなり
渓谷と氷河がそびえ
眩しく緑に点滅
手触りを閃光として放っている
一枚の静かな紙裏にこもる季節
木漏れ日というまるで
機械仕掛けの
または振り出し式の
〈一句〉
目元の薄水とともにあふれる
木枕ごと弾ける部屋の片隅の銀河
記憶に嵌め込まれた落首
壁に朝日が細りやがて萎える
消滅についての憶測
回想が繁茂するという誤謬
昏睡のための歳月がけむり
背景に突風が控えている
〈草深い雲母でできた都市〉など
廃墟に象られ
飛び交うものの影や無言
(ことばの解剖図という語句)も
ふと浮上し
さらなる欠字をもとめて
波紋・風紋もなつかしみ
眉間に凪いだ渚を
彫りきわだたせることから
はじめる

(2016.2.11)