寄稿: 佐藤裕子 「風信」

風信 佐藤裕子

スポイト状の杖は衰えた巻き舌馴れぬ喧騒が心拍を上回る
 蝋燭のシャンデリアを片端から射落とす猛禽の回想
風景を剪定し展望を正す慣わしは老境の余暇にも間断なく
 砕け易さ危うさで堰を切り陰画を明かす不用意な躁
無秩序な貪欲が引き摺る盛装は白砂の岸まで徘徊する混濁
 迎える旧市街が青山を耕し行人に数行の号外を渡す
触れた物が金になる右手抱擁で逃れ賢者は飼い殺しの懐中
 隙ない体裁を謀で支え青い額で覆した金魚鉢の顛末
群れに見る暴力は密告と口封じで祭り祭られる番が訪れる
 ふと折れ途切れ切り岸に佇み伸びる影タイトロープ
膨らむ尿意を跳ね橋へ追い立てもう行列が歓声に追い着く
 綱渡りで抛る一足枯れた川向こうから危急を告げ梟
生まれ変わりは屍骸から生まれる惨たらしいほど賢明な王
 罪深いほど許される遠退きに建つ城で炎に浮く椅子
空隙で綻びた一輪挿しが束の間を握る星座の形を記録する

(2016.3.13)