寄稿: 佐藤裕子「ティールームで」

ティールームで 佐藤裕子

根の息は繊細で聡い否定すれば罰を受ける身に付けた心得
 化粧の落ちた変装が隠す患いを解こうとする嫌な癖
憐憫を誘わない為にも背筋を伸ばし日課とする爪の手入れ
 丁寧に丁寧に一つひとつが理無闇に侮れない言い訳
適度な隙は潤滑油を流し電流を送り空調を整えるオフオン
 縁側を駆けた学帽再び訪れるミシンのセールスマン
メビウスの回廊はいつ何処の物とも知れない仕合せ尽くめ
 冷笑も懐疑も煮詰め茶を出す頃客はなく雑草の花畑
手続きを踏み遠隔操作に一役買う華やぐ笑み瞳は宙に据え
 濡れた割烹着は空中の余白を奪い取り病的に浮かれ
警備が始終通せんぼう包みを嗅ぎ袱紗の中身をねだる真似
 電車通りのパーラーは味が落ちたし内装も見せ掛け
襟を正し昨日と云う夥しい頁から抜き出す昨日の正確さで
 けれどあなたは上の学校へ行きそこで空襲に遭って
セメント漬けのことばはお代わりを勧めるやはり苦し紛れ

(2017.3.25)