連載【第053回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: conflicting similarities

 conflicting similarities

――層状宇宙。
 宇宙面を球体の表面になぞらえたとき、この球面が重層しているとすれば、重なるような形で膜状宇宙が複数、波のようにゆらめいて存在しているというイメージが浮かぶ。物質の発生が、真空のゆらぎから物質・反物質の量子過程を経るとするなら、この高エネルギー状態の真空がその前提にあると考えることは無理なことではない。
 この真空が無から量子論的に発生していると見なせるなら、重力の総体は無と真空との間にわたるのではないか。これは、真空を球体にイメージすると、この球体の芯から物質・反物質の球面が生成され、重力は分裂して球面エネルギーと関与するに違いないからだ。
 これらの物質が、確率的なゆらぎによるインフレーションで現在の宇宙面を形成していく過程であるとすると、この宇宙の因となる真空の内部にある全重力に対称的な反重力エネルギーが生み出されて、新たな原因物質が生成され、これがさらに副次的な宇宙面を現在の宇宙面の球内に生みだしていく。これらが重層的な宇宙面となり、膜宇宙をなしていく。
 インフレーションの規模は不確定であり、空間速度はこの宇宙面をしのぐ可能性がある。もしくは超えることはないのかもしれないが。

 翻って、真空というエネルギー体は無から量子論的過程を受けるのであるから、これもまたある統計的な確率で登場するはずである。
 パラレル宇宙は、物質‐反物質過程、宇宙の対称性、真空を根源にした層状発生、無から断続的に生成するパルス真空体などの形でつくり出されるというアイディアを誘き出す。
 重力は、エネルギーの総体をつくるものであるから、これらの段階のそれぞれに関与し、宇宙の質量問題はこの可能性を計量しなければならない。四つの力のうち三つは一個の宇宙面で統一できるとしても、重力はこれらの膜面すべてにわたるとすると、一宇宙面では統一できないエネルギーなのではないか。

――一点に重なる。
 重なるということは包含されるということとは異なっている。
 包含は全体性の概念だが、重なるということは独立[自立]存在でありながら、全体性とは反位している。
 あらゆるそれぞれの存在は一点に重なり、同化していない。包摂されていない。押しつぶされているが、外延的なすべての一点が別々でありながら全体性を超克しているのである。
 時空も宇宙論的次元も極小の始元も、ただ一点に収束している。
 これが存在のほんとうのありようなのかもしれない。(相反する類似)