連載【第063回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare II: 〈dismantle〉

 nightmare II

 〈dismantle〉
「あたしが病院送りになった原因を作ったあの兄弟は右翼に違いないから、あたしが国家を愛していないばかりか、国家を害していると決めつけていたのよ」
「放射状になった病棟の中央管理所は古くさい時代の残滓だ。それでも秘密の暗号(エニグマ)は残されている。弱者を育て上げる方法のことだ。男だとか女だとかということではない。調教師か獣かということだ」
「弟の方は、国賊でも国土は愛しているはずだともっともそうに述べ立てている」
「はるか彼方の海峡では赤潮が渦を巻いているが、ここを渡り切らなければ、食用の魚類は生き残れない。漁師として片足を突っ込んでしまったからね」
「しかし、あたしはこの国で生まれたわけではないわ」
「何をごちゃごちゃと。今さら寝たふりをしても、あいつらはやってくるんだぜ。早く目を覚まさなければ」
「なぜ、国家に従い、国土を愛する必要があるの?」
「生まれたばかりの赤ん坊が百万人、飢え死にしそうな年寄りが一千万人。妣が国とはどこのことだ」
「制度的に、あたしはこの土地に寄生している民族の一人なんだけれども」
「たしかにバクテリアは寄生生物だが、アメーバや粘菌類は自立しているとでもいうのか」
「土地に寄生していない人間など、だれひとりとしていないはずよ」
「私は悲しくなってしまう。腹ぺこなんだ。食餌制限ばかりしているからな」
「世界中、寄生虫ばかりだわ」
「ふふふ。地震の後の原発事故の終わりのない連鎖は、もうどうしようもない。悪人だって、往生できないさ」
「あれは犯罪、あいつらの財産を残らず吐き出させて、監獄にぶち込むべきよ。あたしは寄生虫の集団に、一方的に制度を押しつけられ、税金を強奪されているのよ」
「いったい、君は何をしていたのだ。何を隠して、何から逃げて」
「地球の土地を、山川を、海を、勝手に収奪し、分割支配した権力者はただの泥棒集団なのに」
「ほほう。なんてことだ!」

 いきなり予防検束という理解できない理由で、あたしは拘禁された。犬のように両手を使って駆け回っていたから、なにか悪巧みをしているのだと決めつけて、留置所に繋ぎとめたのだ。いつの間にか法律が変わって、検察官の思いつきで罪状が捏造され、白昼堂々と市民社会から抹殺されてしまうのだ。反抗したり、拒絶すると、後ろ手に縛られ、天井からロープで吊り下げられる。それから、共犯者として、友人や同僚たちの名を告白せよと迫るのだ。拘束が不当であっても、周りの人間ごと隠匿してしまえば、誰にも知られることはない。あたしは椅子の上で両足を抱えてうずくまる。何という犬だ、断じて猫ではない。(悪夢II〈解体する〉)