ある男の日記 (奇妙な断片 その一)

「舌にも変調をきたし、白湯の熱刺激が独特の味覚となり、アルミニウムの電解性からは突き刺すような鋭い麻痺感も感じる。そして、その感覚が痛みとともに甘美だという事実にもいきどおって。この肛門愛と同質の性癖は人間全体に共通の感覚なのではないか。環界への順応によって、生命活動の領域が広がるのだから、悪癖こそ生き延びてきた力の源なのではないか。この劣悪な地球という物理環境に適応できるのは、危険に順応するということなのだ」

後から現れた男は(私は)、ふたたびアルミポットのつるくびに口をつけ、白湯をたらたらと咽喉に流し込む。裸の男の全身にぷつぷつと水滴が生じ、湯気が立ちのぼる。男の体は白い蒸気とともに朦朧となり、〈眼〉を残して、その〈眼〉に凝視されながら、顔の赤い男もまた霧散してしまうのである。闇の中で、同様の現象を抱えた生命の羅列が、形をもたない記号が消去されるように削除されていく。

そして、無数に残された〈眼〉の中から無数の禿頭の舞踏手たちが腕まくりをして飛び出してくる。男たちの関節は骨が剥き出しているのだが、彼らもまた別の現象を抱えた受難者であるのか。まさかりをかついで、十字架を。