旧作:197404: 魔の満月 第一部(習作)

〔異稿〕I
数世紀も地平線に転がる物体が低い息切れをおとしていく 枝が重く地面にもたれかかり腐敗する根の網脈から白い腹を休みなく顫わせる虫の大群が垂直の夜に翔びたとうとする 紺碧の遮断幕が陽の喘ぎを察して高い波音を合わせて幾重にも降り始める 薄い光が激しく屈折してはやっとの思いでそれ自体ひとつの集合となりながら何ものかの指示を受けて浮游する 生物の類は瀕死の睡りを強いられながらもそのうちの数分の一の部分は怪しい妖気によってのみ恐ろしいまでに活動的となる 地底を専制支配する変わり果てた屍体の輝かしい眼と交り合うのは暗黒を通貫する赤い火の束の元兇である それははからずも火の国家から生み出た凍結した火の塊である 全天を赤味を帯びた王国に変貌させるその幾筋もひぴの入った鏡を実在させるのは悪意を中枢に嵌め込んだ死のたちこめる数世紀を経た魔の変異