緑字生ズ 055 (山間の自然道のわきに)

55

山間の自然道のわきに
朽ちかけた雑木林と
寂れたせせらぎがある
ロートレアモンのことを考えながら
しばらく歩いてゆくと
湯の匂いがしはじめる
山並の向こうに
雲が涌き出していた
どこから来たのか
鉄屑を籠に背負った男と擦れ違う
男は挨拶のかわりに
古い神の名を言った

目の前に
湯煙が立っている
紅梅の小枝を持った
肌の白い女が
裸に見える
そういえば
泣き顔にも思われる
雑沓で見失った
恋人の面影に似ている

蚕は眠っているか
そんな言葉が口をついた

死刑執行官が、手袋を――