旧作:197404: 魔の満月 第一部(習作)

魔の満月 第一部(習作)

直角に突き立つ例の空は腔腸動物のように謎めいた通路――大気圏外へ唯一障碍なしに薄暗く光を吐きながら回転する――となっていて ある周期によってその空の部分を過ぎる生物を捕獲する(その様は 何とも異様に生臭い息を吐きかけ失神させ それから徐々に正方形の薄っぺらなものに変形させる) 犠牲になったものを完璧に水平な地面(その涯は絶壁と仮定される)に重ねていく それは紛れもなく季節の転換期にとりおこなわれる有史以来の祭事である 謎めいた空間の役割は生物の類をその筒の向こうへ 観念とか霊とかいったつかみどころのないものに昇華させて送り込み また その代償に向こうからの金属と思われる物体(それは白光した立方体がこの通路を通じることによるのか あるいは他の何らかの作用なのか とにかく圧縮されいわば厚みのない正方形の塊に変化したもの)で交換し それを綿密に重ね合わせていくことにある 生物の選択は同一種類のものは除かれている 薄っペらな物体は厳密には広大な三角錐を構成していて 一瞥すると水平の三角形の白光する地面になっている 生物の遺恨(理由のない死に様を一方的に決定されたことから)が取り残されてその三角錐の内容となり それは呪われた尖った碑としてあるために同胞の地球生物を魅入りながら(実に取り残され閉じ込められた者にとって逆恨み以外に手はない)この謎めいた空間の交換作用に乗じることとなる 有史以来の憤怒の集積平面――この呪碑こそが 時には 極圏に棲むオーロラの精の助力によって(実は遠隔催眠法によるその利用)甘美な幻とも怪奇な現実とも また 嘔吐を呼ぶ妖しげな匂いともつかぬ画像を白昼にたち昇らせて 年に四度行われる祭事の前ぷれを任じさせられている 直立はするが移動不可能でただ天然の微々たるエネルギーの補給によって 無機物に等しいほどのろまな生存を続ける生物 そのため夢の中の世界を移動願望によって実在していると思い違いしている生物 この弱体の生物らしからぬ生物にも訪れる危機 そもそも逆恨みなどで目標とされるのは地球に対して強力な支配カを持つ生物に限られているが それも底を尽き出すと 石の様にひっそり生存している弱体のホモ=サピエンスにも洗礼は行われる 呪縛の平面はすでに強力な磁場を保有するほどに成長する それはその磁力によって あるいは磁場の操作によって空をきり 飛行自在の紙片に変貌して至る所に襲来することも考えられる 炭素を主成分としているホモ=サピエンスを粉末にしてその紙面に呪いの詩行として吸い取り それを謎めいた空間に持ち込み昇華させて無に交換する過程を 三角錐の六本の辺に覚えこませると 同種の生物を避けるという不文律がまるで阿片のような習慣性によって退けられ さらに耽溺する 傍目には紙片の魔術と受感されながら 彼の困惑しいよいよその本質を開示しつつ 下卑た姿態と怜悧な赤眼の醜い顔がしばしば現われる この至上の振舞いも魔の粉末の毒によるものである さらに この毒物はまさしくあの通路により宇宙撒布され その呪いの語こそ――