未刊行詩集『空中の書』26: 鏡子

 
 
少女が草笛を指のあいだで鳴らしていると、向こうにみえるひかりものから信号が送られてきた そばまで近づいてみると、黄色い空気がただよっていた 胸をひろげて大きく息を吸いこんでいるうちにからだがぐにゃぐにゃしてきたので、苦しくなって気をうしなってしまった
 
 
レンガの壁があたたまってきたので妙に思ってうろうろしていると、鏡を吐きだしてしまった びっくりしてのぞくと、鏡がくもっているのでタオルでふいてみた すると、鏡子の顔が黄色く映ったので、話しかけると、知らないというので、黙っていなさいといった 
鏡がぴしっと割れて、
黄色いガス状の光がとびだした
 
 
生理帯をあてていたが、鏡子は気配を感じたので、いそいでトイレに駈けこんだ けれども、その直前に部屋中の光がかっとふくらみねばまったので、すでに孕んでいた ああ、窓越しの微笑と若草のもだえ 五分くらいで臨月になったので力んでみると、
鏡の球体を生んだ
その児を鏡子と名づけた