寄稿: 佐藤裕子「日誌」

日誌 佐藤裕子

既視は何処から聖像から頭陀袋の口を締め邪気のない笑み
 近付く距離を退く小魚の回遊失せた焦点を掠めぬ類
気取った仕草で珠を磨くように徒に掛ける暗示掛かる暗示
 日日変わる標識を見逃す不注意から尋問される異人
疑似餌には跳び付いても許さぬ心根飼育ならば怖怖手探り
 勢い付く頬擦りで耳打つ履歴日記が省く新手の呪い
律儀に左右の頬擦りを返すと汚水上を群れる綿埃は拡散し
 ギシギシと天蓋が回り頸を押し壁に食い込む三日月
凝視を黒く塗る悪い言葉最愛と怖れは手擦れた硬貨の表裏
 身動ぎもせず通過を待つ生まれつき獏は悪夢喰らい
耳が邪魔で耳を捥ぐ煮え湯で縮む軟骨耳が無ければ口無し
 自動的な頷きに作動する信号僅かな嘔吐に蒼い血糊
喋り疲れ止まる車輪の下敷きで風に吹かれ夢想する野晒し
 憧憬の贄が劣化して荒ぶ乾期発火しやすい有毒気体
暫しその姿勢何も無くなりもっと何も無い処へ行くがいい

(2016.11.15)