寄稿: 佐藤裕子「迂回の渦」

迂回の渦 佐藤裕子

群れ成す木霊を引き連れて像は目覚める鍵盤を削る金属音
 不滅の時を東方に隠し方位磁針の置き場所は遺失物
踏み出し崩れる階段で由無し事に気を取られ戻れない転調
 海側の窓越しは欠け落ち汚水が迸るジグソーパズル
苦し紛れに息を止め錆浮く爪を噛む癖が病んだ現身を照合
 蓋が閉まらない小箱は色取り取りの操り糸に事欠かず
歪む五線に乗り上げたピアノピアノ線を恐怖する大型バス
 迂回し迂回迂回の渦攣る指を広げオクターブの絶叫
ゆらり霧中を進む失踪説急ブレーキで審判図を焼くバイク
 曇ったガラスの鉤裂きは何処までも捲れて行く幼年
粉末ミルクの缶にはそれを持つ少女が果てもなく存在する
 蝋燭の消える音を聴く次いで燐寸を擦る低空を見る
床で動く影絵硝子を抜け伸びる唐草銀の月と青い星の軌道
 向かい側から解体工事の唸り廃材を集めるショベル
暗闇に置いた眼を洗い水に落とした耳を拾い調和の後は無

(2016.11.15)