寄稿: 佐藤裕子「いつかここに」

いつかここに 佐藤裕子

訝しそうな顔付きで辺りを見回す自問に応じる寂しい笑い
 じっとしている雪崩れる陽光を遮り影を暖める為に
水の匂いを嗅ぐと青衣襞を伝う流れを掴んでは離し零す灰
 入り日を吸い黄金を映す燃やす気の迷い気の昂ぶり
千千に分かれ花片は野辺へ朽葉は土へ翅は破れ羽根は遊び
 生命を借りる風もどき草花を食い露を啜り形を写し
黄色い円錐と球が並ぶ絵を描いたでしょホームと付けた題
 酷く哀しいことがあった悲しい理由を覚えていない
海から来た時は髪に白蝶貝夜明け前を抜けた襟は曇る白金
 瞳は誰とも出会わない何を探していたのかさえ曖昧
小さかったベンジャミンが大きくなったでしょうこんなに
 賑わう街は上空まで明るいポインセチアシクラメン
菊花が身を縮め松の針先を弾く庭は明るい降り出した綿雪
 昨日山葡萄の蔓の輪にリボンを巻き飾った松毬と柊
一昔前二昔前丁度ここに坐り待っていたと云う女の人の話

(2017.3.25