絵図阿蘭陀船 佐藤裕子
画であれば欺く女達は呪縛であれ笑みの種類は幸福であれ
衣紋から断崖へ地下道から蹴爪連子窓を破る白い脛
金枝雀に絡まり蝶の群れを留め置いた髪一筋は闇の手土産
零下の波間を半島まで漂流したその上はエトランゼ
結合し枝分かれし縒った糸がキリキリと切れ始める卓上で
寝鳥は騙し船に乗せ遠称の朧ろ真似鶫に頼む手控え
月下美人が陽炎を上げ溶けた切り子の縁は口唇の跡で濡れ
酩酊に任せ薄い耳たぶを放す翡翠の哄笑が続く手桶
現象が故を持ち線に従う海と唱え美酒雨と呼べば面背に雨
傾斜する舷を操りながら身体を明け渡す嵐の異土へ
絵師の酔眼は碧の暈幾度描く顔に紗を掛け出会う筈ない裔
変色した表具を引き抜いて背景を移動する阿蘭陀船
片片の円弧を繋いた鏡を一振り一振り濁らせる七色の絵筆
閨の幻は一度限り軸物は白紙に返り夜の眠りは顫え
目分量の水で薄め濃淡のある午前二時ペイルブルーの氷雨
衣紋から断崖へ地下道から蹴爪連子窓を破る白い脛
金枝雀に絡まり蝶の群れを留め置いた髪一筋は闇の手土産
零下の波間を半島まで漂流したその上はエトランゼ
結合し枝分かれし縒った糸がキリキリと切れ始める卓上で
寝鳥は騙し船に乗せ遠称の朧ろ真似鶫に頼む手控え
月下美人が陽炎を上げ溶けた切り子の縁は口唇の跡で濡れ
酩酊に任せ薄い耳たぶを放す翡翠の哄笑が続く手桶
現象が故を持ち線に従う海と唱え美酒雨と呼べば面背に雨
傾斜する舷を操りながら身体を明け渡す嵐の異土へ
絵師の酔眼は碧の暈幾度描く顔に紗を掛け出会う筈ない裔
変色した表具を引き抜いて背景を移動する阿蘭陀船
片片の円弧を繋いた鏡を一振り一振り濁らせる七色の絵筆
閨の幻は一度限り軸物は白紙に返り夜の眠りは顫え
目分量の水で薄め濃淡のある午前二時ペイルブルーの氷雨
(2017.3.25)