寄稿: 佐藤裕子「平行空間」

平行空間 佐藤裕子

定住しないように傷付けないように細かい鑢を掛けた深爪
 平日幻想を整え過ぎない為に黄身が二つの卵を茹で
科白の前は遠い海後には切り岸金属を含む高密度の夕焼け
 営巣すると傾斜は急だから時折り健忘症を頁に設け
絵を掛け替える庭のない地平裸婦は透き通り銀灰色の柔毛
 生命線を左右合わせ生じるたどたどしいオノマトペ
寝静まった塔の耐震装置を欺き歪める空から行方知れずへ
 粘土を掴む作業に没頭する扁形動物は月光の末梢で
連動する天へ猫舌を預け燃やす息節のない平たい軀を伏せ
 目を開く時は留守居の似姿わたしが振り返った浅瀬
接続面は今日と明日のように離れる領土であるのは今だけ
 餌付けした鳩が来る迄夢は無傷で身代わりを寝かせ
施錠後塔の住人は観葉植物に水を遣り折り込み広告を捨て
 今朝の珈琲は青いクレヨンの味だと不眠の朝の口癖
エントランスの鏡壁を横目に唇を擦り合わせる慣れた構え

(2017.3.25)