寄稿: 佐藤裕子「ムーンライトピクニック」

ムーンライトピクニック 佐藤裕子

無人駅へ行ってはいけない発電所の空地には犬捕りが潜む
 黒パンに挟んだチーズから塩気が抜けてスポンジ状
プラスチックの風が吹くと風邪薬は効きスローモーション
 村で一番高い煙突を飛んだ鳥は墜落知らず白黒反転
裏の裏は表握り締めて壊してしまう壊れて初めて伴う実感
 通学路は毎朝通行止め卒業はしないから遠足も病欠
海は不意を突く雨の日海の見えるところ命が寄せては返す
 薄切り胡瓜は蛇腹シチューが滾り尾を残し焦げ付く
水源地まで歩けないヒール営林署の金網を壊すことは無謀
 空に残る格子は半透明の子ども達が引き寄せた毛布
崩れ掛けた塔の下り階段を駆け上ったのはいつだったろう
 叢雲の月が突然自衛隊の演習場を翳したあれはいつ
向かい風に乗るエンジン音満面の笑みが篩う金銀スパイス
 麩菓子紛いのスフレで一つ大人になる誕生日を祝う
スグリジャム一壜は遭難の備えに人差し指で代わる代わる

(2017.3.25)