missing acts 1
必要なのは破裂することばなのだ。地核での眠りから地表に上り、地面を伝って中足骨からいくつもの関節を跳び越え、脊椎から頚椎、頭骨へ、さらに骨格にまとわりつくあまたの血管を辿り、太い大動脈を引き裂いて、脳漿を膨れ上がらせ、ついにすべてを粉々にして、破裂すること。寝静まって、だれにも見つけられない真夜中のいたるところで、一瞬の、激しいひきつりが発現する。それらを起点にしていくつもの痙攣が波動となって打ち続き、その長い長い苦痛こそがことばのprimary tumor。粉砕された輝く無数の細胞の切片を巻き込み、熱く滾る血液、脳みそ、肉片の飛び散る渦、気化する状態のタイフーン。なによりも切実な痛みの群体!
――わたしにも、思いあたることがあるわ。
わたしの義父にあたる老人が植物状態に陥る寸前。頭部の皮膚の表面と血管と神経は部位ごとに独自の塊をなそうと、白く、赤く、青く、土色に、まだらに、ぶつぶつと、それぞれの部位を幾度となく不規則に膨らませては縮める。一晩中、顔面を痙攣させ、こめかみの静脈が通常の十倍には膨らんでは縮み、顔面の神経が異物のように激しくひきつりつづけ、唇や顎がとめどもなく意味のない運動をし、眼球はあてどなくぐるぐる旋回する。一晩中、まさしく一晩中、脳内で異物がひっきりなしに暴れ回るように、人間の顔のあらゆる奇怪な動きの可能性をすべて現してから、彼はただ一度だけ、意識を取り戻したわ。そしてその直後、まる一年間の最期の眠りについたのよ。それは、あまりに静かな、起伏のない、それでいてまさしく肉体そのものである意識の形骸。いいえ、意識そのものの。直接的な感情のない身体構造! 最期の覚醒の一瞬にふたつの眼球がうつろな球体の奥を透かして、ぎろりとわたしに視線を凝らして。
いいえ、それは違うのかもしれない。たんに無知の、切り離された意識なのかもしれない。どことも結びつかない、切り離された、分離された部分。でも、それは部分というべきではなく、分離され、別個のものとして、独立した全体というべきかもしれない。別の全体ともいえるそれは、何かを知ることができたのかしら。つまるところ全体でしかありえないそれは、そのことによって、たんなる空っぽなのかもしれないのに。(つづく)