連載【第059回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare II: 〈arabian night〉1

 nightmare II

 〈arabian night〉1
 あたしは長い睡眠障害から薬物への傾斜を深めていく。いつのころからか、体がだるく感じはじめ、次第に関節のいくつかが軋み、そのうちに頭の内側と外が乖離していく感覚が訪れていた。体の表面からは鬱状態が蒸気のように発散し、頭の内部では分断された夢に従って脳組織の部分部分に妄想状態の塊がどろりと湧き出していた。いつもベッドに忍び寄る恋人からは、ブルーな女だと言われていたような気がする。
 あたしはなんとなく青いイメージが気になってしようがなく、指先を気取った形にして、大麻を巻いた細いシガレットを口元に持っていくようになった。淡く烟る青いオーラ、その皮膚感覚。でも、じきに半覚半睡の状態で四六時中うろうろするようになった。昼間はそれでもなんとかしのげたけれど、夜の静けさの中では、心臓が凍りつくような恐怖に苛まれた。そして、取り憑かれたようにさまざまの薬物に蝕まれていく。
 ある日の夜中、あたしのからだに小さな黒い虫が這い回っていた。虫はいつのまにか仲間を集め、ベッドを覆っていく。あたしのからだの穴という穴に次々と入り込んでくる。いつもいる恋人が三人に増えている。あたしが声をあげても、体をくねらせても、黒い虫はますます増殖し、寝室のあらゆる空間を埋め尽くしていく。部屋の壁は異常なまでに膨らみ、破裂して、黒い虫たちとあたしのからだの分子構造をバラバラに解体し、撹拌し、エントロピーに従い、インフレーション爆発を起こそうとしている。

 あたしは薬物中毒から、いつしか統合失調症に陥っていた。薬物はドーパミンとセロトニン系に変わっていた。けれども、自覚的には統合失調というより、人格障害のような気分がする。多重人格傾向とでもいうような。現実と現実ではないものとの境界がよく分からなくなってきていた。仰向けになったあたしの背丈が倍の長さに伸びて、ベッドは水平に部屋の隅まで広がり、室内の床が厚いベッドマットに覆われていた。
 あたしの膨れ上がった裸の巨大な足から、足指がぽろりともげて、ベッド上に転がる。つづけて、足首から肥った足が離れていく。からだの部位が独立していくのだ。壊れた人形のように、あたしは脳の内部の世界に深く落ち込んでいた。それはDNAシステムの専制への抵抗、身体機構の抑圧に対する反乱の烽火なのかもしれない。あたしの夢は、連続して分化していく。その部分が、あたしを取り巻く世界を通り越して、いつしか世界を包み込んでしまう。あたしは息を吹きかける。あたしの夢を飲み込もうと。
 黒い虫たちの持つ鋭い牙、毒液を充填しているその尖端。恋人たちのナイフがあたしのからだに同時に食い込む。黒い唾液からは麻薬が滲み出ている。ダークネスそのものの蠢きが重なり、布のように覆い、からだの表面から内部に沁み込み、あたしは暗黒の塊、マッスに凝縮する。頭の芯が見えない。(つづく)