連載【第075回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare III: 〈ritual〉

 nightmare III

 〈ritual〉
 そのような土地で菊の花の祭りが始まっている。fascisme de chrysanthèmes dans fleur pleine(満開の菊のファシズム)が押し寄せる。満開の花。黄色い花びら。山や丘の彼方から海が押し寄せるように、大量の菊の花びらがやって来る。花の祭り、死の祭り。大地震の後の大津波。すべてを根こそぎにして菊の花びらが呑み込んでしまう。
 それは、満開の菊の花のファシズムが押し寄せる夢だ。黄色の花びらが野を山を国土すべてを蔽っている。少しの隙間もなく、植物だけではなくあらゆる動物も人工物も菊の花びらに変えてしまう。すべてが黄色。すべてが黄色、真っ黄色のむせ返る世界。私の呼気も花びらの形、黄色の菊の匂い。そして、天空も菊の花一面になって蔽いかぶさる。この断乎たるファシズム。世界を押し潰して、ただの平面にする力。みはるかす限りの平面は、濃縮され固まった黄色のつるつるした巨大な陶磁器タイルのようだ。

 濃縮された花祭りがこの土地を支配する。紺碧の海にまで迫るその花びらの群れ。黄緑色に縁取られる海岸線。夕陽の赤い色がこれらの花びらたちに燦々とふりそそぎ、オレンジ色の光の絨毯が表面に重なっていく。しだいにオレンジを帯びた黄色が赤みを帯びて、さらにいっそう赤いオレンジとなって黒ずんでいく。一筋の光を海際に残して、水平線に血の色をした太陽が落ちると、神代から伝わる祈祷の声が忍び寄る。古代豪族たちの祈りが夜を迎えているのだ。抑圧されたものたちの呪いを排して。皇族の祈りの夜よ。まほろばを統べる天皇の(つるぎ)。まほろばは、ま滅び。悪い胤がこぼれている。飽食するファシストどもの胃液の匂い。胆汁の流れのつづく夜。
 海から吹く夜風に、死蝋と結びついたあの花独特の香りが混じる。棺に充たされ死者を蔽う黄色い花々。弔いの白い花々。菊の花の匂いは死の匂い。菊の花の匂いは死の匂い。百合の匂いを伴って。(悪夢 III〈祭祀〉)