連載【第077回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare IV: 〈fusillade〉

 nightmare IV

〈fusillade〉
 肺の縦隔腫瘍の増大に対して、呼吸器科では放射線科の医師たちに、照射治療を委託した。あなたは白い胸にマジックインキで何箇所も目印を書き込まれていた。美しい乳房が無惨にも汚されていく。それらの乱雑な十字架はいかなる神の告示なのか、死体となるまで清められることはなかった。あの爆発、あの週末の大雨の夜、あの真っ黒な放射能の一斉射撃をすでに浴びていたのだから。それなのに、またしても度重なる放射能の嵐。あなたは強欲な文明の礎、腹黒い国家の生贄なのだ。
 あなたの病巣は数年前の、あのときにきれいな肺に種付けされ、まず頭部腫瘍に飛び火した。それからは、あなたは残酷な手術に耐え、未熟な新薬にも耐えていた。

 原子力発電などという、狡猾で姑息な策略で、人民の未来を奪い、人民の生活を骨の髄まで搾取する。豊穣な国土が不毛の危険地帯に成り果てて、あの黄色い菊の花の放射能が蔓延する。ああ、黄泉の国土よ。まほろばなどどこにあるのか。
 恐るべき大津波は岸壁の堡塁に激突を繰り返し、巨大な高波となって、その発電所を飲み込んだ。原始の力ではない。無尽蔵の放射線を世界中に撒き散らす文明の悪魔の器だ。なぜ、原子力が必要なのか。だれにも、神でさえ手に負えない利器をもって何をしようというのか。欲望の塊を作り上げても、生命とはただ一瞬の有機物に過ぎないではないか。おまえたちは一瞬の享楽のために、あくまで共食いをしていたいのか。

 こんなに被曝を繰り返すなんて、わたしは蜂の巣、海綿、スポンジなのかしら。縦隔だけに照準を当てていても、放射線は乱暴に私の胸を焼けただらせる。包丁でめちゃくちゃに切りつけられるのとどう違うの? わたしはその激痛だけで失神するほどよ! それなのに何も効果は出てこない。医者は何をやっているの。ただ苦しめるだけ! なぜ、痛みに対する備えと効果についての説明がなかったの! 効果がないときの対処法は用意されていないじゃない! わたしは生きているのよ! 生きているのよ!
 何もすることはないなんて、わたしは死体じゃない。生身の体なのに。生きたまま、死の淵に連れていこうとしている、あなたたちは医者ではない、死神、悪魔なのよ! 助ける努力は全て無駄だ、沈静させて静かに死なせることが功徳だなどと、たわけたことを! この、医者の仮面をかぶった地獄の亡者どもめ!(悪夢IV〈一斉射撃〉)