連載【第080回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 1: 〈dance〉1

 dance obscura 1

 〈dance〉1
 あれは母さんだ、わたしのお母さん。子供たちはざわめく。子供たちは、淡い光の波に漂うごとく、泳ぐように、光に溶け込んでいるあなたの薄い色のからだを懐かしむ。あなたはおそらく、彼らに微笑んでいるのだ。dance siteでは、あなたはいつでも聖母のままなのだ。
 初めのうち、数人の少女たちが裸で現れ、手をつないで、輪を作って踊る。風のように軽やかな若い体、つやつやと靡く長い髪。アンリ・マティスの描く「ダンス」が明るい光の中に現れる。彼女たちは楽しげに踊っている、踊らされている。しかし、それは画家のなせる業ではない。ぐるぐる回り、だんだん早く回り、まるで溶け合ってこちらの視線がバターのように絡まっていく。踊りの輪がいつまでも続く。踊っている、踊らされている、いったい何のために?

 気の遠くなるような幻惑の装置の中で、ひとりの舞姫の体が流れていた。流れているとしかいいようのない微細な曲線を歩いているのだ。エキセントリックな弦楽器の病的な喘ぎが聞こえ始めると、踊り手は片足の爪先の一点に体重を注ぎ、小刻みにふるえだした。獰猛な嵐に逆らって、蒼穹(たかぞら)を翔け抜けるような肉の振動。緋色の、縫目のない薄いシルクの衣裳のふるえが、なによりもその筋肉の闘いを伝えている。
 ダンサーの体が栗鼠のように小さくなっていった。どこまで縮んでいくのだろうか。ついに舞台の上の一点の赤い滴となって、そして……。そして次の瞬間、白い貌だけがきわだって印象的に、深い苦悩の皺を泛べて巨大化した。舞踏手の痩せた白い貌につややかな凝脂が漲っている。(つづく)