連載【第081回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 1: 〈dance〉2

 dance obscura 1

 〈dance〉2
 私たちは考える。あらゆるものがただ一点に重なっている。空間も時間も、さらにはすべての次元も、あるかないかを問わずに、ただ一点に重なっている。宇宙は膨張しているのではなく、内部に向けて、それ自体の分離を繰り返し、重ね合っているにすぎないのではないか。
 沁み入るような音楽が、そのとき破綻をきたした。女の体を包んでいた真っ赤なドレスが勢いよく四方に拡がり、炎のように燃え上がった。静止していたかに見えた体が独楽のように、三角形に広げられた赤い布の下端を支点にしてくるくる廻転を始めたのである。凄じい速度で打楽器が叩かれた。聴覚に対する殴打。女体は宙に躍った。四肢をいっぱいに広げる。白い肌が眼を射る。宙にありながら激しくターンした。
 女の、眉のない、異様にのっぺりとした表情の中に、舞台の、ショーの、すべてが吸い取られ、強烈なライトの洪水の中で、布を介して透き通る白い体が、みるみる光沢を生じていくのだった。
 関節と関節がどのような方法で折り畳まれるのか。まるで骨という骨が関節という接点に吸い込まれていくように見えた。人間は脆いもの、魂も脆いが肉体はもっと脆い、その脆さがあの見事なターンを可能にしたのだろうか。ひとときも目を離せなかったのだ、あそこではすべてが一致していたのだから。どんな細部も看過することはできない。精神と肉体が、思想と技術とが同じ高みにあったのである。
 それはまさしく、ただ一瞬の跳躍――。

――意味と価値があるかどうかはわからないが、生きるべし、死ぬるべしという意志にはたしかな理由がある。それは、侵されざる自らの意志が、ただここに存在するから。
「眼を閉じると世界が閉じる」「そうだ。宇宙も閉じるかもしれない」
 すべてを負っているもの、すべてを蔽っているものの織物のごとく。ありうべきもの、あらざるものの極小の断片のことごとくのために――。(dance obscura 1〈踊りの場〉)