魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

兄の後を必死で追い駈けていた少女もいささか退屈気味だ
ふらふら徘徊しながらボウの叢が奏でる祭りの旋律を口遊む
哀婉な調べは建物全体に共鳴してゆく
透き通るような清楚なソプラノ
その歌声に和するような別の旋律が聴こえる
甲高い動物の鳴き声である
ぞくぞくする艶かしい響き
何というポリフォニー
幼気な少女はその不思議な魅惑に誘われる
とうとう音の発する所に辿り着く
大きな部屋の中に真っ黒な象が後ろ向きに横たわっている
尻から燦く液体を滴らせ
胸ときめかすような甘美な匂いが充溢する
いかなる没薬の効果であろう
少女は歩み寄ると象の尻に貌を埋め その柔らかな中心に接吻する
白百合に頬寄せるかのごとく
恍惚の媚態を満面に湛え 母なる象の双眸はとろけそうだ
両性具有の美神の像の前で拝跪していたラドルの王は その神秘なる箇所が輪廻を示しているのに気づくと 聖言を想起し 長いガウンを靡かせ周章あわてて象の部屋に赴く
おおエレーア
迷子は神々の申し子である
白い腕の美わしき乙女に成長するまで少女は神々の館に封ぜられる
時の中に記憶が蔵われると物質はさらに耀きを増す
酔漢はパンツ一枚で春宵の海原に飛び込む
女が通るとやたらウインクする
紋は菊花ではなく葵であった
だからといって緑茶をひっきりなしに啜るべきではない
躯の深さは底無しだ
小色の一つも稼いでおこう
磁石が鉄を引くのは自然の感応ではなく肉体的特性である
航海日誌が紛失する
虎の首をもち龍の足をもち蛇の眉と蛟竜の眼をもつ母性よ