影の山脈 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

緋の山道
頬白の屍体 枝々を求め
山岨の月響く瓦礫を転げ
呪碑の倒壊の長い振音
目覚めるな 青いガス吐き
ゆくえに 飛跡の葛か

影が燃える 短い舌根の
急き声かすかに 山襞からの
返歌 そのとき 影燃えて
樹脂の ことあげ 深い霧
影燃えて 山頂を
連打する 朝の滴陽

青がかる
冷温動物の群死ね
夜の高い山脈越えねば
唾液におちる湖さえ
朽ちかけず 燦く擬眼の景色さえ
生き還ることのない――

三、屹立の百合・実は死
屹立の高山植物群
おしなべて白くおしなべて発狂の――
球炸裂の遠い反響 日暮れよ!
と念じる 真紅の滝 純白の花弁
波つけるうす闇の凍りつく動悸
葉は重く 毒素撒けば
谷越えて 夢のふり粉
夜尽きて 鵯のはぜる肉殻……

四、影の山脈染めて
影の山脈 乳色のしぶき
地に翔けて どこまでも薄く