ひとりの女は長く伸ばした爪に、同じく真っ赤なマニキュアを塗った隣の指を重ね、エナメルで光った爪を擦っている。嫌なことを思い出しているのかもしれない。隣では作業服の男たちが酔いつぶれていた。それでも、女は声にならない声でぶつぶつと何か言いながら、何も見ないで何かを見ていた。そこには空白が存在していたのかもしれない。視点の定まらないところに、あるべきではない空白が広がっていたのかもしれない。
煤けた照明はこのとき、何をあからさまにしていたのだろう。そして、酔いつぶれていた男たちの中に私がいたのかどうか。それは私自身だったのだろうか。失われる記憶、日常の。